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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
41章 クロスステッチの魔女と猟師の男

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930/1072

第930話 猟師、魔女を観察する

 魔女と焚き火を囲むことになったのは、何の作為もない偶然だった。ジョナサン、と今は呼ばれている名前を名乗り、一猟師として魔女の火の恩恵に預かる。


「お茶は飲む?」


「魔女様のお茶は恐れ多くて」


 そう言って、持ってきた革袋から水を飲む自分に、魔女は少し怪訝そうな顔をした。これについては職業柄染み付いた癖なので、魔女には悪いが私が勧められた茶を飲むことはない。食べ物だって、持参したものがあった。


 私は、本当は単なる猟師ではない。魔女というのは元々の身分も高く、美しいものに囲まれた女達がなるから、魔女一人に『猟師のジョナサン』として雨が上がるまでの誼を結ぶくらい簡単だと思っていたのだけれど……なんだか、違和感があった。


 国王陛下は、あまねく国土、辺境の隅々まで――流石に空に浮き、祖父の祖父が赤子の頃から魔女の唯一の土地である魔都を除いて――そのご意向が届くことをお望みだ。魔女は魔女の女王、常若のターリア女王が率いるものとはいえ、国の地面に暮らす『人間』は国王の民でなくてはならない。だから、私のような者が必要なのだ。民として潜むように暮らし、辺境で生計を立てながら、来るべき時まで無害な民衆でいる者。猟師という職業のフリをするのは、国境沿いや辺境のさらなる奥地に踏み込んでも、誰にも違和感を抱かれない良い仕事だった。行商人でもあちこちの街には入り込めるけれど、森深い地域まで足を伸ばす説明がつけにくい。もう少し動く者は密偵と呼ぶのだろうけれど、私はそういう意味では完全な密偵ではなかった。破壊工作ではなく、諜報、というよりは潜入に特化している。

 最近まで別の地域にいたのは、本当だった。春からの移住者として、それらしい出会いを装い、親切な猟師に技を教わることに成功している。問題点があるとすれば、今から冬に向けて備えているらしい近くの村の人たちの様子だろうか。どれだけ寒くなるんだか……そして、どれだけ厳しいのだか。今度の報告のときに、辺境への冬季支援がちゃんと届いてるか調べさせないと。

 パチリ、と火のはぜる音がする。


「魔女様、魔女様が見てきたよその話をしてください」


 私がそう頼むと、田舎者の娯楽になるのだろうとわかった魔女が話をしてくれた。かなりあちこちに行っているらしく、出てくる地名の種類は多い。かなり遠いところも多いだろうに、やはり箒はズルだ。私たちも空から移動できたら、どれだけ楽ができるか。


(やっぱりこの魔女、元は北方部の平民出だな)


 彼女に長い話をねだったのは、アクセントを聞くためだった。矯正された言葉の中の名残に、いっそう気を引き締める。

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