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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
6章 クロスステッチの魔女の冬ごもり

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第93話 クロスステッチの魔女、初雪を見る

「マスター、さっきはびっくりしました! マスターも本当に戦う手段、持ってたんですねぇ」


「そろそろ恥ずかしいから勘弁して……」


 鳥が落としていった羽を、地面から落ちる前に奇跡的に手に掴むことができた。雪のように白いその羽に、もうすぐ雪が降りそうなところまで冬が近づいていることを思う。


「もうすぐ、“山のばあ様“が寝床を直す頃ね」


「?」


「雪が降るのよ。私の故郷では、そう言ったの。羽布団の中身みたいな、綿雪が降るところだったから」


 その頃になると滑って危ないから、皆、家に籠ったものだった。空を飛べる魔女になった今では、そこまで関係ないのだけれど……やはり癖で、お師匠様の家にいた頃も外にはあまり出かけることはなかった。今回は、初めて一人で暮らす冬なので完全に引きこもるつもりでいる。そのための備えは、食糧に薪に汲んでおいた水に、しっかり用意をしておいたものだ。足りるはず、である。ちょっと怖いけど、足りなくても魔女は早々死なないし、《ドール》であるルイスは最悪砂糖菓子だけでも死なない。


「僕は雪って聞くと、なんだかワクワクするような気がします。あんまりなかったことが起きるような……楽しみだったような」


「それなら雪が降ったら、雪遊びをしましょうか。雪だるまとかまくらを作って、雪合戦をしてもいいかもしれないわね」


 ルイスは私の言葉に、ワクワクとした様子だった。この世界には雪があまり降らない地域もあるようだし、そういうところでは雪が降るのは珍しいから、ワクワクするのだそうだ。昔、グレイシアお姉様が言っていた。お姉様が人間だった頃、住んでいたあたりではそうだったらしい。


「マスター、僕、雪で遊んでみたいです!」


 雪兎を作ってもいいな、きっとかわいい。ルイスの赤い目と、雪兎に使う赤い実は並べたら似合うだろう。

 そんな話をしていたから、きっと呼び込んだのだろう。先程落ちてきた鳥の羽のように白いひとひらが、いつの間にか曇っていた空から降ってきた。


「あら、雪だわ」


「おお……これが、雪……」


 初雪を私の手に受けると、ルイスがしばらく眺めてるだけの猶予を持って溶けた。素手でもあまり冷たいとは感じなくて、人間を辞めたんだなぁとしみじみ思う。


「ルイスが気に入ったのなら、雪の結晶の模様で刺繍をして、何か作ってもいいかもね」


「わぁい、いいんですか? やったぁ」


 嬉しそうなルイスが冷えないように、家に入るよう促す。《ドール》の体は人間のように冷えて凍死はしないけれど、動きは鈍ることがあるらしい。それに、私も寒いのはそんなに好きではないのだ。

 空を見ると、雪はひらひらと降り続けていた。本格的な、冬の始まりだった。

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