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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
40章 クロスステッチの魔女と遠い故郷探し

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第921話 クロスステッチの魔女、一服する

 しばらく飛んで、適当なところで一度陸地に降りてお茶を淹れる。あるいは、簡単な食事をとるか、面白そうなものがあったら拾っていく。そうやって、のんびりと北への旅は始まった。さすがにそろそろ、北の山々でも雪は溶けている頃合いだから、靴を雪用に履き替える予定はしばらくなかった。


「マスター、そろそろお日様が翳ってきました。今夜はどこで休まれますか?」


「そうねえ……近くに家もなさそうだし、まあ、野宿かしら」


 そのあたりに対してまったく抵抗がないので、今夜もあっさりと野宿することが決まった。新しく今回買い替えた敷物を敷いて夕食を食べ、そのまま結界石を使って寝床にできそうな場所を探してみる。


「あるじさま、あそこは?」


 キャロルが指差したのは、人間が通る街道から離れて森を飛んでいた時のことだった。森の少し開けた場所には、朽ちて倒れた太い木があるのが上からだと見える。おそらく、古い木が倒れて開けた場所なのだろう。次に来た時には、新しい木で埋まってなくなっているような。そう思うと一夜の宿にはぴったりな気がしてきて、私はそこに向かって降りていくことにした。


「うん、この木の枝なら眠れそうだし……結界石もちょうど良さそう」


 石で簡単な結界を張ってから、敷物を敷いた。まだ水は追加を汲むほどではないので、川の近くである必要もない。休める場所であることだけを優先して考えたここは、それなりにいい場所だった。


「キーラさま、今夜は何を食べられるんです?」


「とりあえず簡単に、野菜スープかしらね」


 事前に薄く切って日に晒し、よく干しておいた野菜を少し。それから、旅の序盤の特権として生の野菜を多めに。一緒にスープとして煮ておいて、魔法で出したパンをつけて食べることにした。


「魔女になったら病気にもなりにくいし、贅沢もできるし、いいわよねえ」


「贅沢なんですか?」


「生の野菜は贅沢に感じるかなあ」


 昔ほどのありがたみではなくなったとはいえ、今もどこか特別な感覚はあるものがいくつかある。簡単に食べて片付け、食後にお茶を一服しながら、私はぼんやりと考え事をしていた。


「……私を知っている人は、きっと誰もいないけれど。こういうものをありがたがる感覚は、もしかしたら、近いかもしれないのよね」


 それも確定ではない――村がない可能性もあるし、もしかしたら逆に、とても発展していて、生野菜なんていくらでも買えるようになっているのかもしれない。


 そして自分がそれに対して、どんな反応をするのか、まったく予想がつけられなかった。

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