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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
40章 クロスステッチの魔女と遠い故郷探し

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第917話 クロスステッチの魔女、山歩きの靴を買う

 測ってもらった足の大きさは、覚えている数字からまったく変わっていなかった。まあ、この点については、変わっている方が問題だ。同じくらいの年齢や背格好の人の中ではひと回り小さいというその数字を控えた店主が、「お探ししてきます」と奥に引っ込んだ。足の大きさや形は体より変化が少ないらしいとのことで、服よりも靴の方が、最初から作り置いているものは多い。こういうことに関して、服がやっと追いついてきたとも言う。


「とりあえず、いくつか出してみました。山と言いますが、どのようなところを?」


「あんまり危なかったら飛ぶつもりだけれど、ヤギが跳び回るような岩場に行っても平気な靴がいいわ」


「魔女様でしたら、魔女様がお作りになった靴があるのでは……」


 店主は女性向けの華やかな装飾が彫り込まれた木彫りの靴や、何足かの靴を手に困惑した顔で言った。私はとりあえず、一番目を惹いた靴を履かせてもらう。


「魔女の靴は華やかだし、魔法もついてるんだけど……単純に丈夫な靴ってなると、逆に中々難しいのよね」


「はあ、なるほど。魔女は皆、ご婦人か洒落者ですからねぇ」


 私の説明で店主があっさりと納得したのは、魔女が時折訪れるような街の住人だからだろう。そうでない、魔女が珍しい地域の人なら、説明はもっときっと、難儀をしたはずだ。

 木彫りの靴は、しっかりと木目の詰まった木を使った良質なモノで、継ぎ目が触った感じではなかった。表面に花のような模様をいくつも彫り、全体を黒渋で染めている中で、模様を彫られた中には赤や黄色の色をつけられている。素朴な造りながら、綺麗なものだ。中にはウサギの革、裏には牛革が貼ってあるから、ある程度は雪の中を歩くこともできるだろう。これは良い工夫だ。


「見た目は好みだけれど、少し大きいわね……」


 ほら、と私が数歩歩いてみると、靴は私の足より少し大きい証に、軽く靴だけで動いた。私の足とは違う感覚で、靴だけが先んじて、揺れて落ちる。


「まあ、詰め物をすれば問題はないでしょう。こっちも履いていい?」


「ぜひ」


 木彫りの靴を脱いで、次の靴を試す。今度は、真っ赤に染められた革の靴だった。丹念に処理された、これは……牛の革かな? 鮮やかに染められた靴は、なんだか少し懐かしさもある。万が一雪に遭難しても見つかるようにと、冬用の手袋や靴は目に痛いほど染められるのが常だったことを、ふと、思い出した。


(きっと雪の降る地域というのは、どこも似たようなことを考えるのね)


 そんなことに気づくと、ますます故郷は見つからない気もしてきた。

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