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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
40章 クロスステッチの魔女と遠い故郷探し

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第914話 クロスステッチの魔女、謝られる

 私が街に到着したのは、もうすぐ日が暮れようかという頃合いだった。それなりに大きな街では旅人の姿もそれなりに見えて、私の姿をチラリと見かけては、「魔女だ」「魔女がいる……」と驚いた声を漏らす人がちらほら。魔女の少ない地域からでも来たのだろうか。


「あっ……」


 そんなことを考えながら、いつも通りの顔をして、いつもの買い物をしようと店に向かっていた。私の顔を見て、店員や住民といった、さすがの私にも見覚えのある人たちは時折、顔を伏せる。……声でもかけてくれた方が、気楽なんだけれどな。


「マスターに悪いことしちゃったって、反省してるのでしょうか?」


「そうかもしれないけど、あんな風に俯いて意味深な顔されても、どんな風に反応していいか困ってしまうわ……」


「あるじさまにお話のある人は、向こうから話しかけてきますよ。だからきっと大丈夫です」


 キャロルはつんとおすましをして、私にそう言ってきた。そういうものなのか、と思って、お姉様やお師匠様に叩き込まれたように背筋を伸ばし、堂々と歩いてみることにした。これを体得するまで、大変だった記憶もついでに蘇ったけれど。そういうことを自然にできる魔女の方が、実際は多いんだろうな。


「あのぅ、魔女様……また、来てくれたんですか」


 私が時々行っていた乾物屋に入ると、店主は複雑そうな表情をした。確かにこの中年男性は、私がこの街に来るようになったのと前後して店を継いだとかで、時折、話す人だった。そして春、私にパンを乞うて渡された人の一人でもある。


「今度、長い旅に出るの。冬の手前まで戻る予定がそんなにないから、ここの干し肉を買っていこうと思って……ダメ?」


「滅相もない! あの時はすみませんでした……食料を扱う店として、街の人たちに売っていたものの……お金は、食べられないので……」


 どうやら、街の人に保存食を回した結果、自分達の食べる分がそんなに残らなくなってしまったらしい。私があげたパンでお腹を満たして落ち着いた時、どれだけ恥ずかしいことをしていたのか気づいたそうだ。


「そりゃあ、あの時は驚いたけれど……そんなな気にしていないわ。見習いの頃から買い物に来ていた街だもの、嫌いになりきるにはまだ足りなかったわね」


「せめてものお詫びに、色々とおまけをさせてください」


 ええと、こういう時ってどう言うんだっけ。あんまり人に謝られたことがないからな。ああ、そうだ。


「謝罪を受け入れます……で、いい、はずよね、言い方として」


「ありがとうございます……!」


 本当にたっぷり、おまけと割引をされてしまった。商売が心配になるほどに。

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