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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
40章 クロスステッチの魔女と遠い故郷探し

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第908話 クロスステッチの魔女、行き先に迷う

「いくつか出てくるとは思ってたけど、七個も出てくるとどうしていいかわからないわよぅ……」


 つい、机に伏せて地図を触りながら、そんな本音が漏れる。頰にインクがついた気がするけれど、まあ、濡れた布で拭ってやれば落ちるからそこは問題はない。


「近くから行くとかー?」


「もう少し手掛かりになりそうなものを思い出してみる、とか?」


 むむむ、と頬を膨らませながら、どうしたら良いのかを真面目に考えた。何せ二十年以上前に後にした地のことだ――人を手掛かりにしようにも、山奥の寒村は簡単に人が死ぬ。大半の人は、ちゃんとした名前も知らない。少なくとも、苗字というものはほとんど記憶になかった。


「改めて思い返すと、びっくりするほど特定できそうな要素の記憶がないわ……」


 山羊なんて山の上の村なら、多分どこでも飼ってるし。山の上の景色……これも似たようなものは旅の途中で見たな。温泉……は条件に入れてこれだし。温泉は大地の火で温められた水だから火を吹く山と近いって言ってたのは、グレイシアお姉様だったっけ?


「なんだっけ……あ、山のことは誰かが、エルなんとかって言ってた、っけ?」


 多分、たまに来る商人とかそんな人だった気がする。その記憶を頼りに地図を見てみると、点がついた山はみな、エルがつく山の名前だった。エレンベルクの「EL」から音を借りた結果だったっけ、これは。エルロンド、エルテイラ、エルキリア――これはいくつかの山が全部「エルキリア」らしい。ここに村が三つ。それから、エルリターナ、エルンステラ。全部覚えがあるようだし、そうではないような気がする。


「どうやって調べよう……」


 冬になるとどの村も、高さの線から見れば死ねそうなほどには寒いように見えた――これはまあ、行ったことがないから経験則で言ってるけど。ここでも特定できない。山の高いところでは麦も育たないだろうし、そうなると育てる作物で探すのも意味がないだろう。どこもどうせ、栗の木だの蕎麦だのに決まっている。他に自慢のできる物があるなら、そもそもあんなに貧しい暮らしはしていなかった。あの時はそれと気づかなかったとしても、あれは、そういう場所だ。


「豆と蕎麦粉でカサ増ししたパンは、体にいいとか言う魔女が出たとしても二度と食べたくないな……」


「魔法があってよかったですね、マスター」


「パンは小麦粉っていう贅沢を噛み締めていたいのよ、いつまでも」


 とりあえず近くから回ろうかしら、なんてぼんやりと考えたりした。

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