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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
39章 クロスステッチの魔女と《ドール》失踪事件

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第897話 クロスステッチの魔女、誤解を解きに行こうとする

 魔女組合の正面扉から入ると、いつものように三々五々といる魔女達の噂話が一瞬、面白いほどにぴたりとやんだ。それからまた、何かを囁き合う声がする。その中にちらほらと、『ドール泥棒』とか、『どんな顔をして』とか言われている言葉が混ざっている。やっぱり、私が泥棒だと思われているようだ。

 とりあえず、こういう時は笑顔だ笑顔。笑って、明るい声を出す。直接的な手段に訴えてくる魔女がいない分、人間だった頃よりは気が楽だと思え。


「こんにちはー、依頼の納品に来ました!」


「あら、こんにちは。お早いですね」


 組合の魔女は私に話とノリを合わせてくれるのか、単に噂を気にしていないのか、普通に接してくれた。私の持ってきた納品物を受け取ってくれて、普通にお金を払ってくれる。


「あの、ええと……この間の泥棒、まだ捕まっていないんですか?」


「大丈夫ですよ、今似顔絵を用意していますから……ほら」


 似顔絵、あの魔女の顔だろう。確かにあれは、私とは似ても似つかない顔だった。私が拙いことをするまでもなく、噂自体はこのまま放っておいても消えるものだったのかもしれない。

 そんな話をしている間に指差された方を見て見ると、壁に似顔絵が貼られていた。あの時に《過去映し》で見た、犯人の魔女の顔だ。


「先日起きたドール泥棒の顔を提示する! 証言がある場合は、組合の魔女まで。こちらから《天秤の魔女》に情報を伝え、捕縛してもらうので。当人が捕縛されるより前に自ら罪を認めるのであれば、その時は自ら名乗り出るように!」


 掲示された似顔絵の下には「ドール泥棒未遂」という言葉と、雷花の花粉を利用した誘拐の手口の文章が書かれていた。わかりやすく魔法を使っていれば捕まえやつかったのだけれど、生憎と、あの映された過去ではわかりやすく魔法を使う場面はなかった。それで、流派などは書かれていないらしい。でも銀の首飾りはしていたから、二等級魔女だとは書かれている。


「あら、全然違う顔ね」


「あの黒髪の子が泥棒じゃないの? だって、クロスステッチの魔女でしょう?」


 ……多分この囁き声は、例の一番目のクロスステッチの魔女を知っている人なのだろうな、と思った。ぐるりと見まわしてみても、口を動かして噂をする魔女が多くて、今話していたのが誰かはわからない。


「でもあの魔女、どこの誰かしら」


「私の知り合いとはちょっと、髪の色合いが違うわねえ」


「この辺りの人ではないとか?」


 私にしていた噂の矛先は、拍子抜けするほどすぐに張り紙に移っていった。

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