第893話 中古ドール、危機感を覚える
僕はマスターがお風呂から出て、髪の水気を布と魔法で拭き取った後に寝てしまった姿を見て、他のみんなと顔を見合わせた。マスターは、すやすやとお眠りになっている。その邪魔にならないように、でもマスターの前から完全に姿を消さないように、みんなで部屋の隅に集まった。
「どしたのー?」
「こっそり集まるような真似をなさって」
「キーラさまはお休みになってますけれど、それなら他の部屋でもいいのでは?」
口々にそんなことを言う、みんなの顔を見回す。……僕にとって、彼らもまた、大切な家族のようなもの、だ。マスターがまた増やしたとしても、きっと、一番上の兄としてちゃんと振る舞う自信があった。
「今日のあの、サリーのことを思うと……僕達も、強くならないといけないなって、思いまして」
「悪い魔女様もいるんだものねー?」
「魔物は普段、あるじさまの《魔物除け》があるから、あまり会うことはありませんものね」
僕やラトウィッジがある程度武芸を《付与珠》や練習で修めているとはいえ、実戦の経験はほとんどない。僕達はマスターにかわいがられるのが仕事だから、先生達のようにマスターをお守りする戦力としての力を、まだ万全には持っていない。
――今までは、それでもなんとかなると思っていた。マスターが魔物に襲われたことはほとんどないし、僕達もその時が来たらちゃんと戦える。けれどそう思えなくなったのは、サリーが攫われかけた姿と手口を見た時だった。
「今のままのんびりしていたら、あの誘拐犯みたいなのが出たときに、マスターをきっと悲しませてしまいます」
「確かに……」
「だから、特にキャロルとアワユキも、自分の身を護る練習をしましょう!」
僕の頭では、ヒトの形をしていないアワユキがどうやって戦えばいいかなんてわからない。でも、アワユキの爪はマスターが綺麗な石を使ってくれているから、頑張れば少しは、何かができるかもしれない。キャロルは小さいとはいえ、元々僕なのだから、僕と同じ練習できっと大丈夫。キャロルが使えるような、小さくて軽くて、細い剣は必要だろう。きっと、ラトウィッジが弓を買ったような場所にならあるはずだ。
「アワユキ、やるー! 主様に褒められたいし!」
「わたくしも……攫われて、あるじさまを悲しませたくありませんわ。わたくしは小さいから、きっと簡単に隠せてしまいそうですし」
幸い、二人はすぐに納得してくれた。それからマスターが目を覚ますまで、僕達はこっそりとそういうことの勉強をした。




