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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
39章 クロスステッチの魔女と《ドール》失踪事件

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第891話 クロスステッチの魔女、二着目を仕立て始める

 依頼を受けて家に帰り、買ってきた物をそれぞれの場所にしまう。布だけはそのまま机に置いて、お師匠様からもらった布と一緒に並べる。どちらの布から手を付けるか、机に両方を置いて少し悩んだ。型紙は簡単なものだし、袖や裾に工夫をすれば、型紙が同じだったりしても差別化は難しくない。要するに、どちらから先に作るか、というだけだった。生地の色合いと素材は違う。どちらも薄手で、これからの季節には向いていた——魔女に気温なんて、あってないようなものだけれど。


「よし、先に貰ったからこっちにしよう」


 紅茶を飲みながら考えて、お師匠様からもらって慣れた布にすることにした。使いたい型紙に自分の数字を合わせて、裁断の準備に取り掛かる。違う型紙を使うとはいえ、短期間に二回目なので、印つけと裁断にはそこまで苦戦はしなかった。布も昔から何度か作っていて、扱いやすいものだし。最初に作った小物入れは、さすがに年季が経ちすぎて半分壊れてしまった。魔法で強化はしているとはいえ、作りが甘かった。今はあちこちほつれているものを、騙し騙し使っている。ちなみに初めての革細工は、今、財布として使っている袋だ。二本どりで蝋引きした糸を使っているから、私のつたない裁縫でも、今のところお金を落としたりしたことはない。


「マスター、マスター。このお服、完成したらどこに着ていくんですか?」


「とりあえず近くの森かなあ。ドール泥棒がいるかもしれないなんて、しばらく魔女組合も行きづらいし……」


「主様、アワユキたちのこと大好きなんだねー」


「大好きよ。みんないなくなったら怒って心配するからね」


 そんな話をしながら、鋏を動かす。何着も服を作れそうなくらいの長さの布だったし、正直少し失敗したところで、痛い目に遭うのは自分だけ。少なくとも今のところは、魔法だって絡めていないとくれば、肩の力を抜いて気楽に挑むことができた。


「探してくれますか?」


「探さない魔女なんていないわよ! だからちゃんと、私があげたものは持っていてね。そこからいざとなったら、探せるかもしれないから」


「……嬉しいです」


 ラトウィッジの体は一度捨てられていたから、余計に感慨深かったのだろう。それはそれとして、鋏の近くに降りてくるのは危ないからちょっと距離は置いてほしい。やんわりそう言うと、ラトウィッジはちょっと恥ずかしそうに照れ笑いをしてみせた。やっぱり、《ドール》を盗む人の気が知れない。そんなことをしたって、心は手に入らないのに。

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