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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
39章 クロスステッチの魔女と《ドール》失踪事件

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第890話 クロスステッチの魔女、依頼を受けに行く

 私はミリエル様が届いた素材を受け取っているのを見た後、部屋を出させてもらえて帰れるようになった。


「縁があったら……いえ、あった方がいいのか、よくないのか、少し自信はありませんが……とにかく、また」


「ええ、ではまたいつか」


「また組合には素材を買いに来てくださいな」


 はあい、と頷いて部屋の外に出ると、人ごみは少し落ち着いていた。魔女の数人が、裏の部屋から出て来た私を怪訝そうな顔で見ている。……まあ、仕方ない。気にせず、私は切ってもらった布とボタンを持って支払いをしに行くことにした。


「これ、くださいな」


「わかりました、少々お待ちください」


 簡単に計算されたお金を払おうとすると、妙に安い気がした。自分でも一生懸命——久しぶりに——指まで使って計算しても、合わない。


「あれ、ええと、ええと……」


「すみません、さっきご迷惑をかけた分、少し安くしております」


「そ、そうなんですか!? ありがとうございます……」


 指で計算していたのがバレたら、お師匠様に叱られてしまう。バレないといいのだけれど。計算を覚えてから指で計算しなくなるまで、十年くらいはかかったのだ。今もたまに、不安な時は指が出てしまう。


「よかったら、また来てくださいね」


「はいっ!」


 私は少し浮いたお金に得をした気分になりながら、依頼の並んでいる一角に移動した。私にできる程度の依頼があればいいのだけれど、と思いながら並んでいる依頼を見てみると、採取品の納入や糸紡ぎ、機織りが何種類か並んでいた。幸い、私にやれる三等級向けの依頼もあったし、すぐに納品できる品物があったのもよかった。依頼の紙をいくつか取り、そのうちのひとつについては指定されていた草をカバンから取り出しておく。


「すみませーん、これ受けます。あと、これについてはもう持っているので、納品確認お願いします」


 すぐに担当の魔女が依頼の紙と草を確認してくれて、私に規定通りのお金をすぐに払ってくれた。他の依頼は、家に置いていった草か、家にあるもので作れるものばかり選んである。後は、近所で採れそうなものも選んだ。


「あなたみたいに依頼をちゃんとしてくれる魔女がいてくれるのは、助かります。早いですしね」


「まあ、まだ私も《肉あり》なので、ある意味魔女らしくはない気がします」


 冗談めかした言い方をして答えてみると、相手もくすりと笑ってくれた。


「そうなったら私達は、あなたが《肉なし》になった後が少し怖いかもしれませんね」


「まさか!」

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