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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
6章 クロスステッチの魔女の冬ごもり

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第89話 クロスステッチの魔女、命のことを説く

 魔兎を仕留めて、私に振り返ったルイスは笑っていた。先ほど灯露草を採った時と同じ、褒めて欲しいという笑顔だった。今度頬についていたのは、土の汚れではなく返り血だったけれど。


「ルイス、頬が汚れてるわ。こっちにおいで」


「はい、マスター。お怪我はありませんか?」


 大丈夫よ、と言ったけれど、本当は魔兎に突進されて転んだ時に石の部分が思いっきり足に当たって痛かった。多分、青痣くらいはできているだろう。とはいえ、弱いとはいえ魔物に遭遇してこの程度で済めば御の字だ。人間だった頃なら、同じような攻撃を受けても青痣では済まないだろう……骨にヒビくらいは入っていたかもしれない。我慢できない痛みではないから、ルイスには何も言わないでおくことにした。頬の汚れを取ってやりながら、魔兎の様子を見る。頭にはダメージが多いようだけれど、他の部分は綺麗なものだった。適切に使えば木剣でも魔石を砕けるということだろうか。本来なら石を砕いてしまえば、そこで魔兎は死んで終わりだったのけれど……。


「ルイス、どうして魔石を砕いた後も魔兎をぶっていたの?」


「その……だって、本当に死んでマスターを傷つけなくなったのか、わからなくて」


 《ドール》はマスターを慕い、守ろうとするのは本能だ。ルイスはどうやら、それが強いようだった。魔兎—――魔物とはいえ、一応は命—――を殺したことへの罪悪感はないらしい。


「マスター、魔兎はマスターのお役に立ちますか?」


「お役に立つわよ、とっても。毛皮は鞣せば色々なものになるし、お肉は食べれるし、骨はスープを取ってもいいし針とかにしてもいいし……ルイス、だからといって魔兎を仕留めるために探そうとしなくてはいいからね?」


 私の言葉を途中まで聞いて走り出そうとしたルイスを止めて、死んだ魔兎の処理をすることにした。仕留めた責任者として、ルイスにも勿論手伝ってもらう。カバンの中を漁っていると奥底にナイフを見つけたので、それで血抜きをして、皮を剝いだ。鞣しは家に帰らないとできないから、綺麗な布でくるんでおくことにした。


(昔は苦手だったなあ、仕留めるの)


 狩りをするのは昔の私の仕事ではなかったけれど、村で買っていた鶏とかを捌くのは私の仕事だった。最初は怖くて悪夢も見たものだけれど、いつの間にか、魔物や動物を殺すことへの罪悪感は減っていた。私の手つきをじっと見ているルイスも、罪悪感はあまり持っていないようではある。


「ルイス、私たちは狩人じゃないわ」


「そうですね、マスター」


「狩猟が必要な時は、専門家に頼むつもりよ。でも今回は魔兎を捌いてる。どうしてだと思う?」


 肉から抜いた血は、小さめの革袋に溜めていた。血は箱庭の肥料にもできるし、確か、私たちが口にしても大丈夫だったはずだ。少なくとも、地面に無為に染み込ませてしまうのは勿体ない。


「うーん……僕がシチューにして欲しいと言ったからですか?」


「いいえ、私たちが殺したからよ。殺したからには、無駄なく使ってあげなくては。勿体ないでしょう? だから、戯れに殺してはダメ。わかった?」


「……はい、わかりました、マスター」


 血抜きと皮剥ぎを終えて、それらと綺麗な布にくるんだ肉をカバンに入れた。完全に痛みが引いたわけではないけれど、作業に没頭している間に、足の痛みは軽くなっていた。

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