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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
39章 クロスステッチの魔女と《ドール》失踪事件

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第889話 クロスステッチの魔女、談義をする

「お時間、ごめんなさいね。他に買うものはありますか?」


「うぅーん……多分、これで足りると思います。後は、買い込む分、依頼を見て稼いで帰ろうかなと思ってました」


「真面目な姿勢は良いものです」


 うんうん、と店員の魔女に褒められた。サリーの持ち主の魔女は、六角柱の形をした水晶を取り出してきて「その……よかったら、なのだけれど」と言ってきてくれたので、私も自分の水晶を出す。


「そういえば、名乗っていませんでした。リボン刺繍の二等級魔女アルミラの弟子、クロスステッチの三等級魔女キーラといいます」


「これはご丁寧に……かぎ針編みの二等級魔女エステラの弟子、かぎ針編みの二等級魔女ミリエルです」


「ちなみに私は、絹糸の魔女メリンダの弟子、麻糸の二等級魔女レーナといいます」


 私達の名乗りに軽く手を挙げるようにして、店員の魔女あらためレーナも名乗ってくれた。波を交換する相手が増えた、と喜んでいると、サリーの持ち主の魔女・ミリエル様は真剣な顔をして、いくつかの私にはピンと来ない素材をレーナ様に頼んでいた。レーナ様が「倉庫を見てきますね」と言っていなくなり、少し暇になる。


「それらの素材、編み物の一門は使うんですか?」


「ええ。身を守る魔法の中でも、特に強いものに使うの」


 編み物と刺繍は同じような素材を扱う時もあれば、そうでない時もある。今回がまさに、そうだったらしい。それでも同じ魔法に辿り着くから、世の中は不思議だ。


「ああでも確かに、刺繍で作る《身の守り》に使う素材って伸びなさそうだからなあ……」


「多少は伸びてくれないと、編み物の一門としてはまったく使えないものになってしまうからね」


 私達の横ではサリーとルイス達も自己紹介をしていて、ルイス達はすっかりカバンから出て、勝手に周囲を観察したりしている。アワユキが大きな箱を勝手に開けようとしたのは、さすがに止めた。


「アワユキ、ここ、家じゃないから勝手に開けないの」


「この箱、すごーく雪を詰めてある感じがするー!」


「だとしても、多分、素材だから……」


 珍しいのを連れているわね、とミリエル様に言われて、私は「色々あって」とだけ話す。今時、確かに《精霊人形》は少ないようで、あちこちに出歩くようになっても、アワユキ以外の子には会ったことがなかった。


「そういえば、あの《痺れ取り》の魔法に使っていた糸って何なんですか? 刺繍の一門だと、《痺れ取り》ってもうちょっと違う色で凝っているから……」


「ああ、それはね……」


 レーナ様が帰ってくるまで、ミリエル様は快く色々と教えてくれた。

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