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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
38章 クロスステッチの魔女と服の仕立て

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第880話 クロスステッチの魔女、忠告される

 予定よりも派手なルイスが持ってきたボタンは、青く染めたガラスを光るように切り出したものだった。飾りを重視していて、ボタンとしては個人的にやや不安な一つ穴の足つき。それでも、少しは腕前も上がった。何より、似合うと思って持ってこられたものを、無碍にはできなかった。


「部屋着とか作業着に使いたいから、四つ穴か二つ穴の、丈夫で単純なボタンも探したいわ。手伝ってくれる?」


「はーい」


 アワユキがまっさきにふわふわと、面白いものを探して飛び出そうとした。あんまり遠くまで行かれてしまうと心配なので、リボンで右の後ろ足を捕まえておく。


「今日は人が多いからね、あんまり遠くまで行っちゃダメよ」


「はぁい」


 そんなことをやっていると、「ちょっとあなた」という声と共に、軽くトントンと肩を叩かれた。声だけでも十分気づくのにな、と思いながら振り返ると、魔女が一人、少女型の《ドール》をしっかりと抱き抱えていた。燃えるような赤毛をくるくるに巻いていて、首につけているのは、私と同じ三等級の首飾り。


「ここで《ドール》を好きにさせるのは危ないわよ」


「確かに逸れるかもしれませんが、《魔女の夜市》ほどではないですし、リボンもありますから大丈夫です」


 彼女は私の言葉に、首を横に振った。それから少し周囲を見回した後、私の耳の近くに顔を寄せてくる。


「最近、いるのよ。《ドール》を盗む不届者が」


「えっ!」


 多分、今の言葉を《ドール》たちに聞かせないように、彼女は気を配ってくれたのだろう。私を気にするように見るルイス達に「大丈夫よ」と軽く手を振った。


「あの、ありがとうございます。私もみんなを抱えるか、カバンに入れます」


「構わないわ。沢山いると大変ね」


「でも、みんな大切な子達ですから」


「そう……ところでそちらのボタンの瓶、見せてくださる?」


 彼女の言葉に頷いて、ボタンの瓶を取りながら、みんなが揃っていることを確認した。ちゃんといる、よかった。


「やっぱりはぐれると怖いから、カバンにいてくれる? ボタンとかはカバンの近くに持ってくるから、それを見て欲しいな」


「わかりました」


 幸い、皆すんなりと納得して入ってくれた。ルイスはカバンを閉じてしまうと少し怖がるから、ちょっぴり開けておくことにする。


「主様のボタン、見て選びたかったー」


「また今度やればいいわ、今のを作った後も、どうせ服は作るんだもの」


 そんな風に不満を溢すアワユキに苦笑しながら、私は忠告してくれた魔女と別れた。

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