第880話 クロスステッチの魔女、忠告される
予定よりも派手なルイスが持ってきたボタンは、青く染めたガラスを光るように切り出したものだった。飾りを重視していて、ボタンとしては個人的にやや不安な一つ穴の足つき。それでも、少しは腕前も上がった。何より、似合うと思って持ってこられたものを、無碍にはできなかった。
「部屋着とか作業着に使いたいから、四つ穴か二つ穴の、丈夫で単純なボタンも探したいわ。手伝ってくれる?」
「はーい」
アワユキがまっさきにふわふわと、面白いものを探して飛び出そうとした。あんまり遠くまで行かれてしまうと心配なので、リボンで右の後ろ足を捕まえておく。
「今日は人が多いからね、あんまり遠くまで行っちゃダメよ」
「はぁい」
そんなことをやっていると、「ちょっとあなた」という声と共に、軽くトントンと肩を叩かれた。声だけでも十分気づくのにな、と思いながら振り返ると、魔女が一人、少女型の《ドール》をしっかりと抱き抱えていた。燃えるような赤毛をくるくるに巻いていて、首につけているのは、私と同じ三等級の首飾り。
「ここで《ドール》を好きにさせるのは危ないわよ」
「確かに逸れるかもしれませんが、《魔女の夜市》ほどではないですし、リボンもありますから大丈夫です」
彼女は私の言葉に、首を横に振った。それから少し周囲を見回した後、私の耳の近くに顔を寄せてくる。
「最近、いるのよ。《ドール》を盗む不届者が」
「えっ!」
多分、今の言葉を《ドール》たちに聞かせないように、彼女は気を配ってくれたのだろう。私を気にするように見るルイス達に「大丈夫よ」と軽く手を振った。
「あの、ありがとうございます。私もみんなを抱えるか、カバンに入れます」
「構わないわ。沢山いると大変ね」
「でも、みんな大切な子達ですから」
「そう……ところでそちらのボタンの瓶、見せてくださる?」
彼女の言葉に頷いて、ボタンの瓶を取りながら、みんなが揃っていることを確認した。ちゃんといる、よかった。
「やっぱりはぐれると怖いから、カバンにいてくれる? ボタンとかはカバンの近くに持ってくるから、それを見て欲しいな」
「わかりました」
幸い、皆すんなりと納得して入ってくれた。ルイスはカバンを閉じてしまうと少し怖がるから、ちょっぴり開けておくことにする。
「主様のボタン、見て選びたかったー」
「また今度やればいいわ、今のを作った後も、どうせ服は作るんだもの」
そんな風に不満を溢すアワユキに苦笑しながら、私は忠告してくれた魔女と別れた。




