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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
38章 クロスステッチの魔女と服の仕立て

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第879話 クロスステッチの魔女、買い物しようとする

 翌朝。作った服は一日休ませることにして、別の服で出かけることにした。カバンにはもらった布を入れて、いつものように魔女組合へ向けて飛んでいく。


「あら……混んでるわね」


 普段より少し混んでいる理由は、張り紙を見てわかった。もうすぐ、この近くで《小市》が開かれるらしい。我こそは、という魔女は売る予定の作品を提出して、出店側として応募することができるようだ。その手順が読みやすい字で書いてあるのを見ながら、周りで漏れる言葉を聞く。どうやら、《小市》の出店者になるための、一定の技量の確認として提出物が必要らしい。


「確かに、貴重な出展枠をその人に割いたのに、稚拙すぎる売り物を出されたら揉めそうだものね」


「というか、昔どこかで実際に揉めたんですって。それなら全員出させればいいのに」


「空間を広げるくらい、組合勤めの魔女なら簡単だけど……キリがなかったって聞いたわ」


 知らない魔女同士が話しているのを後ろで聞いていると、どうやら《小市》という呼び名ではあるものの、そこそこ大きめの規模らしい。大きい《小市》とはこれいかに、とは思うけれど、要するに大きめの建物を使うから、出店可能は少し多め。おかげで、店を出したい魔女達がこの辺りに来ては、こうして提出物作りの買い物に組合へ来ている……ということのようだ。


「目当てのボタンとか、買えるかしら」


「目をつけてたのがおありで?」


「ううん、見てみないとだけど……人がこんなにいたら、人間用のボタンを探すのも大変だし、選択肢も減ってそうだなって。確かに、大半は《ドール》に使うための大きさばかりで……なんて言えばいいのかな、あんまりここで人間向けの大きさの資材を沢山見た記憶がないから、優先順位が低い? のかもだけれど」


 そう言いながら売り物の並ぶ一角を覗くと、明らかに売れてしまって空いている隙間がいくつかありながら、人間と魔女がつける大きさのボタンが何種類か、一応残っていた。胸元を止める飾りボタンに、小さく目立たないようにつけるボタン、それから袖用のカフスボタン。どれもガラスの瓶に入っていて、そこから必要な個数を取り出すようだった。一通り、仕立てようと思えば必要なもの自体はあるので、そこは安心する。問題は色だ。選択肢が、それほど残っていない。


「マスター、マスター、これはどうですか?」


「今日買うのは作業着用よ……」


 ルイスは真っ先に、派手な装飾用のボタンに飛びついて行った。私の目の色に似た青色は美しかったけれど、今回は作業着なので、派手にするつもりはない。


「働けばいいか……」


 なのに気づいたら、一個、手に取っていた。

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