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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
38章 クロスステッチの魔女と服の仕立て

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第871話 クロスステッチの魔女、試行錯誤する

 細筆に、砕いた雲母を混ぜ込んだ水を浸す。しかしすぐに、水と一緒に雲母も落ちてしまった。これは、糊になるものが必要なのだろう。


「そのままは難しそうね……ええと、使えそうな糊は、っと」


 資材部屋に向かい、思いついた素材を出しに行く。《ドール》の皆があれこれ出してきたから多少は荒れている可能性は考えていたけれど、綺麗に物が戻されていた。みんな、ちゃんとしてくれていて嬉しい。それはそれとして、また増えてきたから整理しないといけないのだけれど。


「あった、あった。これを使えば……」


 手のひらに少し余る程度の大きさの壺の、蓋を開けて状態を確認する。うん、多分大丈夫だろう。


「マスター、それはなんですか?」


繋樂樹(ケイラクジュ)の樹液。物と物をくっつける接着剤として人間にも使われているけれど、魔力を込めるとさらによくくっつくの」


「変な匂いー!」


 確かに、つんと来る独特の匂いがする。正直言って少し苦手なのだけれど、魔法の絡んだものを問題なくくっつけるのには、一番重宝する素材なのは確かだった。


「全部使うと失敗した時に怖いから、まず雲母を入れた水を半分に分けてー……こっちに糊をべちょっと」


 壺には木製の匙も一緒に入れているので、まずはこれで一杯、掬い入れる。器の中で筆を使い、水と雲母と糊を混ぜ合わせた。筆を持ち上げてみても、まださらさらとしすぎている。もう少し糊が必要だ。というわけで、もう一杯追加する。適量は入れている物で変わるので、こうやって少しずつ試す方がわかりやすいのだ。


「あるじさまは、どれくらいを目指すんですの?」


「そうねえ……とりあえず、筆に雲母のキラキラが残る辺りまではやらないと、意味がないかな」


 水でも多少は行けるかな、と思ったけれど、このままでは乾いた後、服を持ち上げた瞬間に全部落ちる。せっかく砕いたのに、そんな結果ではあまりにも悲しすぎた。なので、しっかりくっつけることにする。

 魔力と一緒に糊をあと二匙追加したところで、やっと雲母のキラキラが筆に残るようになった。これを少し、フリルの布地につける。魔法を絡めた糊はあっという間に乾いたので、布地を持ち上げた。ひっくり返して、軽くはたく。よし、落ちない。


「後はこれをあちこちに塗ればいいわね」


「主様ー、キラキラ、足りそう?」


「やってみて、足りなかったら追加で粉にしてもらうわ」


「わかった!」


 筆はとても細いので、刺繍の隙間もある程度ならキラキラを置くことができた。フリルと襟をキラキラにするのに、追加で何枚か雲母を砕いてもらった。

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