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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
6章 クロスステッチの魔女の冬ごもり

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第87話 クロスステッチの魔女、二人で草を採る

 目当ての草原には、強いて言うような名前がない。人間の生活圏からは少し離れていて、利用するのは私のような魔女くらいだからだ。ここのことを、お師匠様やお姉様達から聞いたわけでもない。独り立ちする前、お師匠様の使い飛びをしていた途中に見つけた草原だった。その時は花の時期ではなかったから、見分けられるようになった葉が沢山ある草原としか思わなかったのだけれど。


「白い花が沢山咲いていて、ここだけ雪が降ったみたいだわ」


「綺麗ですねぇ、マスター」


 ゆらめく蝋燭の炎のような形の葉と、真っ白い花びらの根本がほんのりとクリーム色をした花。その灯露草が沢山、群れをなすようにして咲いている姿は綺麗だった。魔法の力を移すだけなら、灯露草を大量に使うことはない。沢山の灯露草を利用することで強い灯りを作ることは可能らしいけれど、お師匠様からは禁止されていた。取り扱いで事故を起こす未来しか見えない、と。わざわざ占わなくてもわかると言われていた。


(まぁ実際、今の光量があれば夜でも作業できるし事足りてるのよね)


 持ってきたスコップである程度土をつけたまま、根っこから灯露草を採取する。私のその様子を見ていたルイスが、私の真似をして灯露草の根っこを掘り始めた。《ドール》用のスコップを持たせたというのに使うことを忘れて、どこか楽しそうに手で掘っている。《ドール》の爪は、人間や魔女と違ってさほど丈夫さが変わらない。ルイスもそうだけれど、指に爪型の溝が彫ってある子が大半だ。それでも核が持つ人間だった頃の名残なのか、爪を立てるようにしてルイスは頑張っていた。

 彼の服が土に汚れているが、まぁ、後で魔法で綺麗にできる範囲だ。泥ではないから、さほど手間もかからないだろう。


「マスター、僕も採れました!」


 頬に土汚れをつけて、元気に灯露草を掲げるルイスは嬉しそうだった。ありがとうね、と受け取ってみると、箱庭に植え替えを試す土つきではなく、すぐに加工してしまうつもりの土なしとしては上等だった。体も手指も小さいからか、私がやるよりも上手に土が取れている。


「こんなに上手に土が取れるだなんて、すごいじゃない! あと3本……いえ、5本こうやって採れる? 砂糖菓子食べながらでいいからね」


「わかりました!」


 せっかくなら小さな草の実とか、小石とか、私がしゃがんでも見つけづらいものを探してもらうつもりだった。これは予想外の、嬉しい成果だ。私は嬉しくなって、ルイスに灯露草を任せて他の草花を見ていた。


 この時の私は、気を抜いていたのだろう。自分が見つけた場所の危険性なんて、当然、把握などしてなかった。

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