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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
6章 クロスステッチの魔女の冬ごもり

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第86話 クロスステッチの魔女、雲の中を知る

「う――――――ん、真っ白!」


 突入してみた雲は薄灰色の雨か雪を持っているはずの雲だったのだけれど、中に入ってみると晴れた日のように白かった。視界も白くて、ふわふわとしているようなしていないような、奇妙な感覚をさせるものがまとわりついてくる。ほんのりと甘い味が広がるのは、雲が甘いからだろうか。


「マスター、わわ、僕の視界も真っ白で……甘い!」


「ほんのり甘い味がするわー、面白い!」


 《雨雪除け》の魔法が発動している、チリチリとした魔力の感触がある。雲の中の雨と雪を魔法が正しく除けられているらしく、雲が最上級の絹布や綿のようにまとわりついてくる感触をさせてくる以外、濡れたりする不快感はない。ルイスの様子は雲が視界を覆ってくるからうまく見えないものの、魔力の気配はするから大丈夫だろう。


「ねえルイス、雲の中って面白い?」


「すっごい面白いですね! この雲は、紡いで糸にできないんですか?」


「ちょっとやってみよっか」


 なんとか片手を空けて糸巻を取り出し、呪文を唱えて雲から糸を紡ぎ始める。この糸があれば、きっと素敵な魔法が紡げるはずだ。少し紡ぎ取っただけで魔力が結構持っていかれる感触はあるものの、糸巻に白い糸が溜まっていって視界の白が少しずつ薄くなっていく。糸巻ひとつに糸を巻ききった時、体内の魔力が結構持っていかれたものの、雲もかなり薄くなっていた。糸についてキラキラとしている半透明の小石のようなものは、雨か雪の粒なのだろうか。初めて見る素材だった。もっと難しいかと思っていたものの、ルイスの手前口にしなかった未来予想図よりはやりやすかった。


「マスター、この糸でどんな魔法が作れそうですか?」


「うーん、なんだろうねえ。何にしてみても、糸そのものにそれなりに魔力があるから強めのものが作れると思うわ」


 いそいそと糸をカバンにしまって、私はぐるりと視界を見渡し、太陽の向きから箒の進路を少し修正させる。視界の下の方、つま先の向けている方に目当ての草原があるように見えた。そのまま箒の高度を少しずつ下げて、順調に足先の触れるものが変わっていく。空、木の葉、そして草へ。


「マスター、僕は何を探したらいいんです?」


「魔力のありそうなものを、なるべく選んでみてね。でも、全部は摘んじゃ駄目。三つあったら、二つまで。二つあるなら、一つだけ。一つしかなかったら、それは残しておいてね」


 きょとんとルイスは首を傾げる。「全部摘んじゃったら、来年から生えなくなるじゃない」と言うと、彼は納得したように頷いた。

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