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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
37章 クロスステッチの魔女と人間の世界

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第858話 クロスステッチの魔女、整理をする

 いつものベッド、いつもの椅子、いつもの窓辺、いつもの部屋。遠出して知らないものを知り、見たことのないものを見ることも悪くないけれど、やっぱり家は恋しくなる。


「こう思うとつくづく、流れ歩きの魔女には向いてないのよね」


 呟きが漏れた。ひと所に家を持たず、流れ歩く暮らし方をする魔女もいる。これぞ、という場所に辿り着くまで、ずっとそうしているのだそうだ。私はゆっくりとお茶を淹れて、のんびりとした時間を過ごすことにした。


「マスター、またどこかには旅をするおつもりで?」


「そのうちね。秋くらいまでは、のんびりするつもりよ。近くの山とか森とか……日帰りのところには行くつもりだけれど」


 とりあえず、今日は荷解きもしなくてはならない。買った道具のしまい場所を考えたり、お茶の葉をしまったり。食べ物や飲み物は問題ないけれど……お風呂も洗って入りたいな。そう考えると、案外、のんびりするのは難しいのかもしれない。


「よしっ、働くわよ!」


「おー!」


 気合を入れて、元々の部屋の掃除以外のことをすることにした。荷解き、寝袋干し、それから採取物の整理。一度連想したらやることはたくさんあって、みんなにも手伝ってもらっても結局、日が落ちる頃にやっと落ち着けたほどだった。


「明日こそ……明日こそ、ゆっくりのんびりするわ……」


「それがいいです、マスター。思いっきり引きこもりましょう!」


 洗ったお風呂に汲んできた水を溜めて温め、熱いほどのお湯してから入る。みんな用の小さい風呂にもお湯を入れて、旅の汚れと埃を洗い流してやることにした。


「明日は洗濯しないと……」


「休もうよー」


「休むべきですよー」


 みんなから口々に言われて、そうかあ、と思い直すことにした。洗い替えというか、洗濯を一日くらいサボっても着る物がない、わけではない。うん。大丈夫大丈夫。……よし、明日はサボろう!


「明日はおいしいもの食べて、サボるわ!」


「お料理は僕がしますから、とにかくおサボりしてよいかと」


「そう? じゃあ、お願いしようかしら」


 ルイスは、私が頼ると嬉しそうな顔をした。濡れた手で頭を撫でると、銀髪が濡れてさらに輝く。


「アワユキも撫でてー」


「わたくしも!」


「ラトウィッジもお願いします」


 すぐにみんなが寄ってきてねだるので、いっぱい撫でたりくすぐってやる。《ドール》たちの陶器や毛皮の肌に熱いお湯がどう感じるかはわからないけれど、彼らはお風呂を楽しんでくれているようならよかった。

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