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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
37章 クロスステッチの魔女と人間の世界

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第857話 クロスステッチの魔女、精霊の庭を手入れする

「こっちも様子を見ないとね」


 ということで開いたのは、《精霊の樹》を植えていた庭の方だった。異常は感じないので、問題が起きてはいないはずだ。そちらの庭を開いて入ってみると、濃い精霊の気配が私を包む。


「増えたわねえ……」


「いい感じに放っておいてくれてるからだよー」


 そう言ってくれたのは、アワユキだった。四種類の精霊の力の循環は、自然でも起きていること。下手に手を加えないのが良かったようで、ふよふよと浮いている精霊達は自分達の循環で好きにやっているようだった。時折、私の顔を覗き込む気配がする。


『……、……!!』


 小さな小さな、囁き声の気配だけする。話している中身は聞き取れない。力が弱いからか、精霊が私に聞かせる気がないか、どちらか――多分、両方。


『おさとう! まじょのおさとう!』


『あまくて、きらきら! ほしい!』


 これはしっかりと伝わってきた。ご要望とのことなので、魔法で砂糖菓子をたくさん出す。


『もっとー!』


『もっとー!』


 魔力の循環がうまくいっているとはいえ、砂糖菓子は別なのか。あるいは、私の目にはうまくいっているように見えただけで、実は問題があるのか。とにかく精霊たちは、砂糖菓子を欲しがった。水にも、土にも、風にも、火にも何個か撒く。それらを、精霊たちの光が喜んで受け取っているのはよくわかった。


「アワユキ、これ、大丈夫だと思う?」


「大丈夫じゃなかったら、ちゃーんと主様に言うよー?」


「うん、ならよかった……お願いね?」


 精霊の力を巡らせているこの庭は、私があまり手を加えなくても循環して木を育てるようにしてある。前に見た時より少しだけ背が伸びた《精霊樹》の絵を羊皮紙に描き写している間も、濃い土と水、風の匂いと、火の匂いを感じていた。


「他の《庭》にも応用させたいけど、ここまで完全に放って置けるほどの庭にするのは難しそうなのよねえ」


「ああ、収穫したり植えたり、ここに比べるとよく環境を変えるからですか?」


「その通りよ、ルイス」


 正解して嬉しそうにしているルイスの言う通り、おそらく、ここはこの状態で基本的に完結しているからうまく行っているのだ。というか、普通の《魔女の箱庭》でこのやり方が通るなら、多分みんながとっくにしている。


「……みんな、時々砂糖菓子をあげにくるわ。この木のこと、見守ってあげてね」


 小さな鈴が鳴るような音が、了承の意を伝えてくれた。ついでに顔にどこからか鉄砲水がかけられたのは、まあ、その……ご愛嬌ということで。

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