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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
6章 クロスステッチの魔女の冬ごもり
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第84話 クロスステッチの魔女、編み物を頑張る

 ルイスに本を読んでもらって、編み物を進める。使う糸はいきなりグース糸だと失敗した時に悲しいので、まずは前に紡いだ時に太すぎて放置していた糸を出してきた。ある程度は伸びるし、大丈夫だろう。多分。


「マスター、ここで針でひとつ前の目を掬うみたいです」


「ふむふむ……あ、行けた」


「この挿絵に近くなってきたと思いません?」


「ルイス本当にありがとうねぇ……」


 しみじみとそう呟きながらしばらく挑戦していたものの、秋の日はすぐに暮れていく。気が付いたら随分と薄暗くなっていたので、《灯り》の魔法の刺繍に魔力を通して部屋を明るくした。人間だった頃は「蝋燭もタダじゃないから」と日が落ちたら寝ていたけれど、魔女になってからは夜を比較的明るく過ごせるようになったのは嬉しい。もっとも、私の魔力と技量では強い光は作れないけれど。部屋を照らせる程度で会って、《魔女の夜市》であたりを照らせていたような灯りは作れない。


(いつかは作ってみたいけれどね、ああいうの)


 布も糸も知識も足りないので、私は私の手の届く範囲を少しずつ広げていくだけにするのだ。冬になる前に灯露草の群生地に行って、花を摘んでおくべきだろう。その花で染めた糸が、《灯り》の魔法の刺繍に必要なのだ。冬の夜に灯りが消えてしまったりしたら洒落にならないから、予備を用意しておくべきだろう。

 そんなことを頭の片隅で考えながら、頭のもう半分はルイスの言葉を聞きながら編み針を動かす。くるりと編み針を回して、糸を絡めていく。良く伸びるのが毛糸で、あまり伸びないのがレース糸と言っていたのは誰だったろうか。編み用の糸ではないけれど、似たようなことはしている現状をちょっと面白いと思っている。

 ルイスは、私の役に立てることを心底喜んでいるようだった。刺繍の図案を見てもらったり、剣を習ってくれたり、この子はこんなにも私に対して心を砕いてくれているという事実が嬉しい。マスターである魔女に従い、喜ぶのは、《ドール》の本能に組み込まれた部分であるとはいえ。《ドール》の核に組み込まれた原則にどう従うかには、彼らの個性が許されている。ルイスはとても忠実で、誠実で、いい子だ。私からは、何が返せるのだろうか。


「マスター? どうしたんですか?」


「ああ、ごめんね。イイ感じに丸っこい形ができてきたし、今日は切り上げて休憩するか考えていたの。もう遅いしね。ほら、窓から月が見える」


 本当ですね、と言っているルイスのために、魔法で砂糖菓子を作って手ずから食べさせてあげる。ふにゃっと笑うルイスは、血にまみれた《ドール》には見えなかった。

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