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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
36章 クロスステッチの魔女と魔女だけの暮らし

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第835話 クロスステッチの魔女、探し物をする

 魔法のカバンに簡単に物をしまうことができるとはいえ、過信はできなかったりする。というわけで、次の日は荷造りにあてることにした。


「みんなに作ったカバンの残りの革、また何か作るかもって出しっぱなしにしてたからしまわないと……」


 また何か作るかもだし、と同じく横着をして出したままにしていた、裁縫箱も一度中を開いてよく確かめる。ひとつひとつが大切な道具だし、何より、魔女の裁縫箱の中身は人間の同じものより特殊だったり危ないものがあることも珍しくないからだ。


「あの、マスター」


「……私もちょっとまずいなって思ってる」


「まち針が一本足りませんっ」


「さ、探して―!」


 針をそれぞれの針入れに入れたり、入っているものを数えたりしている時に、ルイスの乾いた声がした。まち針が一本足りない。十本ひと揃いになって、色とりどりのガラスの頭をつけていたまち針が。足りないのは黄色だ。まずい。大変にまずい。落としているとしたら、間違いなくこの宿の中だと思う……そう思いたい。


「キャロル、アワユキ、小さい二人を全力で頼るから見つけて! 黄色い帽子のまち針よ!」


 最後に出したのは、カバンを縫っていた時のはずだ。針山に刺した覚えはあったのだけれど、針山に刺していた針も回収してしまおうとしたら数が合わない。掃除に来たエリー様達のように、自分以外の誰かに怪我をさせてしまうかもしれないから、針の取り扱いは慎重にするよう叩き込まれていたはずだった。こんな間違い、見習いの頃以来かもしれない。


「机の近くを探してみますっ」


「アワユキ、一応上から見てみるねー」


「こんなに近いと、逆に《探し》の魔法は使いにくいのよ……手を刺さないようにね!」


「それはキーラさまの方が気を付けるべきかと」


 私の言葉に、横からラトウィッジがツッコミを入れる。アワユキからも「主様の手だけが柔らかいんだよー?」と真顔で言われた。そういえば、あの子の爪は鉱石で作ってたわね。針を魔法で探そうとしたら、間違いなく、裁縫箱に反応してしまってうまく見つからない。なので地道に探していると、しばらくしてキャロルから「あったー! ありました!」という声が上がった。


「あと、他にも針が……」


「前のお客の忘れ物とかかしら」


 床に敷いた木の隙間に、すっぽりと収まっていたらしい。私のまち針と、もう一本の縫い針。もう一本については、後でエリー様に聞こうと決めて、残りの荷物をまとめ直す作業に戻った。

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