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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
6章 クロスステッチの魔女の冬ごもり

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第83話 クロスステッチの魔女、本を読もうとする

「マスターは編み物をしたこと、ないんですか?」


「ほとんどないのよねぇ、これが」


 家に戻ると、ルイスが興味津々といった様子で私の手にある本と編み針を見ていた。先端に鉤のついた針は、家にないものだ。冬の間中かければある程度使えるようになるかもしれない、と一縷の望みをかけながら、借りた写本を簡単に綺麗にした机の上で開く。


「…………」


 少し真ん中を開けて、無言で閉じた。まず書いてある単語が難しくて読めない。とりあえず最初から開き直すと、とりあえず中表紙のタイトルは読めた。『編み物の基本』……目次……も、読める。中央文字はお師匠様が教えてくれたし、昔、自分の名前の書き方だけは知っていた北方文字と然程変わらない。


「で、問題はこの後……」


 肝心の編み方の部分に説明が移ると、簡単な絵と難しい文字の羅列になっていた。絵を見るだけではわかりにくいから、本当は文字と両方合わせて理解するべきなのだろう。


「マスター、どうしたんですか?」


「思ったより、書いてあることが難しそうでね……」


 ルイスにも本を見せてみると、彼はふんふんと呟きながら文字を指で追っていた。なんだか楽しそうにも見えるし、私のようにつっかえつっかえになってもいない。そして文字を追いかける指がある程度進み、挿絵のところまで到達すると、彼は嬉しそうな顔で振り返った。


「大体わかりましたよマスター!」


「え、わかるの!?」


 あんまりにも嬉しそうに「これでマスターのお役に立てます!」なんて言うものだから、私もつい嬉しくなってしまった。それに、いくらレース編みの魔女エレインがお人好しとはいえ、本が読めないところから教えさせてしまうのは迷惑になるだろう。それを回避できるのも、いいことだった。


「それにしてもルイスったら、本当に賢い子ね」


「僕が知ってる文字とはちょっと違うな、って感じはありますが……文章も通るし、あってると思います」


 ふうん、と言いながら、私は空中に北方文字を少し書いた。中央文字とは形の違うものを選んでだ。


「それってこういうの?」


「んん、多分違うような……きっと見たらわかるんですけど」


 またひとつ、ルイスの謎が増えた。《ドール》は元の人間の知識を引き継ぐことがあると言うけれど、ルイスの場合は……魂すべてを素材にして生まれた、この子はどうなのだろう。暗算ができるのも、私より簡単に文字を読んでみせるのも、とても気になる。気になるけれど、私は聞かないでいようと決めた。

 それが人間の頃のことであれ、前の持ち主の元にいた頃のことであれ、思い出すのが幸せとは限らないのだから。


 この世には、そう。『知りたくなかった』と泣くことになる事実だって、あるのだ。

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