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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
35章 クロスステッチの魔女と魔都の生活

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第827話 クロスステッチの魔女、完成品を受け取る

 夜、とっぷりと日も暮れてとうに月が出ている頃合いに、飛び出してきた武器屋の魔女は嬉しそうな顔をしていた。


「はい、こちら『ルルカ武器工房』の最小短剣よ」


 小さい短剣には、私が他の子達に買ったものと同じように赤い革が柄に巻かれていた。刃も同じように見えるけれど、これは単なる《縮小》の魔法ではないこともわかる。一から、ちゃんと仕立て上げてくれたのだ。《拡大》や《縮小》は、思っているほど便利なものではないのも知っている。下手な縮め方をした場合、特に命を預かる武器や防具、魔法の絡む道具では事故が起きることがあるからだ。だから、こういうところではあまり使わないらしい。私も、身を守る魔法を《ドール》たちに作る時には使っていない。


「こんなに小さくなるものなのね」


「アワユキ、持ってみて」


 一緒にお茶をしてくれていた魔法開発の魔女が、持ってきてもらった短剣を見て素直な感嘆の声を漏らしている。私も頷いた。

 アワユキが手にしてみた短剣は、小さな手にこの上なくぴったりと収まった。小さい男の子が枝を振り回して騎士ごっこをするように、武器の扱いの心得がないアワユキはぶんぶんと短剣を振るう。楽しそうな顔をしているから、私もつい笑ってしまった。


「うん、調整は大丈夫そうですね」


「よかったわね、アワユキ」


「ありがとー! 主様ー!」


 きゃっきゃっと笑ったアワユキに、他の《ドール》たちも口々に「よかったね」「よかったですね」と笑う。やっぱり、アワユキは大きさの関係でどうしても我慢をさせてしまっていたのかもしれない。これからは、もう少しアワユキにもお揃いにできるものを用意してあげよう。


「普段はこれに入れてください」


 そう言って手渡されたのは、柄に巻いてある革よりも少し赤い鞘と、それを提げるための長さを調整できるベルトだった。アワユキがそれを肩にかけるようにしてつけると、くるりと回って「見て見てー!」と見せてくる。かわいい。


「本当にありがとうございます、ルルカ様」


 短剣の柄やベルトの先端といった場所には、丸の中にルルカの文字を崩したお店の焼印がされていた。それらを一日以内で仕上げてしまうのだから、腕のいい職人なのだろう。指定されたお金に少し追加して払ったら、さらりと返された。ううん、これくらい払ってもいいと思うのだけれど――昔と違って、そういう判断もわかってきたのだ。


「いいと思うのでしたら、どうぞご贔屓に。私も、色々と試すのが楽しくなりますので」


「ありがとうございます」


 私は頭を下げて、お釣りを受け取った。

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