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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
35章 クロスステッチの魔女と魔都の生活

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第824話 クロスステッチの魔女、《付与珠》を使う

 魔銀の刃をつけた短剣を、ラトウィッジとルイス、キャロルの大きさに合うようにして買った。アワユキも持ちたがったけれど、手の大きさが合うものがないのは仕方がない。弓矢に矢筒、《付与珠(オプション・ジェム)》のすべてを買うことにして、支払いに大きめの硬貨を渡して細かいお金をもらった。


「古風な《精霊人形》のために、今、お作りしましょうか? お値段はこれくらいで」


 さらりと示された値段は、誂えを作ろうとしているにしてはやけに安かった。私が「安すぎませんか?」と呟くと、魔女は笑って答える。


「私の好奇心もありますし、何より、このように小さい手では材料代が大してかかりませんから」


「な、なるほど……」


 アワユキの大きさに合う武器は諦めていた。さすがに手が小さいし、ぬいぐるみの身体に入った今でも、アワユキには少しなら雪と氷を出す力がある。けれど、武器屋の魔女としては、自分のところに来たお客に売れるものがない、というのは気分の良いものではないのかもしれない。


「一度やりたかったんですよね、どこまで小さいモノを作れるかの実験」


 単なる好奇心に、いい大義名分が渡っただけな気もするけれど。早速店の奥に籠り出した彼女を見送りつつ、私は店の《ドール》に許可をもらって、カウンターにラトウィッジを寝かせた。


「主がああして篭っている時は、後で取りに来るからと言って帰ってしまわれると残念な顔をされます。お手数ですが、《付与珠(オプション・ジェム)》の付与と馴らしでもしながらお待ちください」


 と言われたので、お言葉に甘えることにしたのだ。ラトウィッジの上半身を脱がし、陶器の肌に触れる。それから、買った《付与珠(オプション・ジェム)》を持った。触っているだけなら、単なるガラス球のような感触がする。けれど、これは殻なのだ。


「クロスステッチの三等級魔女キーラの名の元に――核を示せ」


 私の言葉に、ラトウィッジが目を閉じる。代わりにその胸元に現れるのは、私が買った《核》だ。そこに、ガラス珠を寄せる。使ったことはないけれど、やり方は知っていた。


「この珠が宿す経験、力、知恵。これらを、ラトウィッジへ授ける」


 私の手の中で、《付与珠(オプション・ジェム)》が解けて光の球となり、それらは綿花から綿糸を紡ぐときのように光の筋となる。光はラトウィッジの《核》に取り込まれて、その煌めきの中に消えた。


「戻り、目覚めよ」


 《核》の光がラトウィッジの中に沁み渡り、目を覚ます。その時には、弓と短剣の一通りの取り扱い方がその頭の中に書き込まれているのだった。

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