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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
35章 クロスステッチの魔女と魔都の生活

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第822話 クロスステッチの魔女、試し撃ちをさせてもらう

「弓に迷っているのでしたら、一度、全部試してもらうのはどうですか?」


「えっ、いいんですか?」


「そのつもりで準備もしてましたし」


 弓の良し悪しなんてわからない私に、魔女がそう言って手招きした。三張りの弓とラトウィッジの手を取ってついていく私に彼女が見せたのは、店の裏手だった。品の良い赤い煉瓦の塀で、魔法により頑丈にされている。さらに、塀自体が簡単な結界の役目を果たしていた。つまり、この庭で矢が的から逸れたりしても、塀自体が単なる頑丈さだけではなく、結界としても、他の場所に迷惑をかけない作りになっているのだろう。

 庭自体は木製の簡素な的や藁の人形がいくつか立てられている以外は、あまり変わったところのない庭だった。人の目を惹くような花や魔法に使えそうな草木がたくさん植えられているわけではない、という点では、魔女の庭としては変わっているけれど。多少はあったから、素材を育てる場所だけとして使っているわけではない、といったところだろうか。


(ただ頑丈にするだけでは足りないとしたら、この庭の中でどれだけの物が取り回されているのかしら……)


 なんてことも、少しは考えつつ。私たちはラトウィッジに、三張りの弓で試し撃ちをしてもらうことにした。練習用の、木を削って矢羽根を植えただけの簡素な矢で、一回ずつ的を狙ってもらう。


「少し足を開いて、背筋を伸ばす。右と左、どちらが利き手ですか?」


「ええと、咄嗟に動くのは右です」


「では構え方はこうで……」


 簡単にやり方を教えてもらったラトウィッジが、見様見真似で弓を構える。最初に手にしたのは、白春楡の弓だった。


「引き絞ってー……放つ!」


 ヒュン! といい音を立てて、矢が的に向けてすっ飛んでいった。的の真ん中ではなく、下の方ギリギリに刺さった矢が震える。


「あ、当たった」


「外れました!」


「最初で的に当たっているだけ、上出来よ。ラトウィッジ、他の弓も試してみて」


 真ん中を狙っていたのだろうラトウィッジが、外したと悔しがっている。けれど、私にはそこまで酷いと思えなかった。今度は乙女椿の弓で矢を放ってみると、これは的の上の方に刺さる。自分なりに狙う位置を、修正した結果なのだろう。

 最後に冬柳の弓を構え、撃つ。真ん中から五重に描かれた的の円のうち、一番外側の線の上に矢が突き立った。


「あの、もう一度ずつ試してみていいですか」


「構いませんよ」


 魔女から許可をもらったラトウィッジが、もう三回矢を放つ。それらはどれも一番外側の円やその周囲に刺さり、ラトウィッジの中ではどれがいいかを決める手助けとなったようだった。

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