第821話 クロスステッチの魔女、弓矢を見る
ラトウィッジが持ちやすい程度の弓矢を探している、と言うと、店の《ドール》は頷いて私に店の一角を案内してくれた。
「こちらが、お客様の《ドール》に適切な大きさの弓矢となります」
艶やかな蝋などを塗ったと思われる、光る弓が何張りも並んでいた。木製のそれらは、皆、素材となる木が違うのだろう。どれも、微妙に違う色をしていた。弓に張ってある弦も種類があるし、小さな壺の中には弦だけが入っている物もあった。多分、弦だけを買う人もいるのだろう。切れることがあるから、予備の弦は絶対に持ち歩いていると言っていた声を思い出した。あれは確か、村の猟師だったはずだ。
「どのような弓がいい、などのこだわりはありますか?」
「いえ、初めてなので……私自身は弓を使ったことがないんです。だから、選ぶ基準もわからなくて」
「そういった魔女様は珍しくありません、というか、武芸を嗜む魔女様の方が珍しいです。では、こちらで選ばせていただきますね」
確かに、一人であちこち行動するようになってから色々な魔女にあった。けれど、グレイシアお姉様のような魔女はほとんど会ったことがない。お姉様にはドレスとかも似合うと思うんだけど、着ている姿を見た覚えがあんまりないんだよなあ……。
「そちらのお客様の名前は……」
「ラトウィッジです」
「ラトウィッジさまも弓矢の経験がないとのことでしたら、引くのにあまり力のかからないものをお勧めいたします。これと、これと……このあたりでしょうか」
三張りの弓が《ドール》の手によって選び出され、棚の近くの机に置かれた。白っぽい物、茶色が強い物、そして薄緑色の物と色も違う。あちこちを薄手の金属で補強し、さらに模様も彫り込んであった。間違いなく、作った魔女は細工の一門だろう。
「これらの弓は、白い物が白春楡、茶色い物は乙女椿、薄緑色の物が冬柳から作成した物になります。弓の性質としてはどれも素直な物で、かけてある魔法も単純に《頑丈》のみ。お値段の方も、お求めやすい価格の初心者向けです」
「色以外に、何か特別な差はありますか?」
「一番頑丈なのは白春楡、柔らかく傷つきやすいのは冬柳、中間が乙女椿となります。また、柔らかい分、冬柳はよくしなりますね。弦は現在、すべて同じ蜘蛛糸のものを張っていますが、本来は必要ない時は、弦を張らずにいるべきです」
説明のために張っておいたものだったらしい。また、よく人間大の弓に使う獣の腱は、《ドール》の弓の弦にするには太すぎるらしいとも教わった。
さて、どれがいいのだろうか……。




