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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
6章 クロスステッチの魔女の冬ごもり
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第81話 クロスステッチの魔女、《ドール》に沐浴をさせる

「ルイス、薬草が新鮮なうちにお風呂に入ろっか」


「わあ、いいんですか?」


 薬液を作るために必要な薬草は、箱庭でも育てている。けれど森で新鮮な薬草を多めに摘んでくることもできたから、今日はルイスをお風呂に入れてあげることにした。薬用の黒鉄の鍋を出して、そこで薬液を煮る。鍋で煮た薬液を少し冷まして、ほどよい温度にしてからルイスを入れるのだ。

 庭の泉から汲んだ、魔石の成分が少し溶けた水。雪草の白い花びら、琥珀蜂の蜜、陽だまり花の根、太陽と月の光を浴びた蛍石の粉。それらをまとめて鍋に入れて、薪で火力を調整しながらぐつぐつと煮込む。魔力を高めるために、この火は刺繍の魔法を火種にしたものだ。

 私が火の側から離れられないでいる間、ルイスはお風呂の支度をしているのが視界の隅に入っている。ルイス用の大きさのタオルを何枚か並べて、着替えに柔らかいシフォン生地の寝間着を出してきていた。お風呂の時間を彼は楽しんでくれているようで、ちょっと嬉しい。最初は慣れなかったようだけれど、お風呂って一度入ると病みつきになるのよね。正直、叶うことなら私も毎日お風呂に入りたい。


(もし将来、お師匠様がこことは違うところに住んでいいと仰ってくださったら、私、お風呂の近くに住みたいなぁ)


 何が悲しくて、わざわざ薪で水を温めてお湯にしないとお風呂に入れないのか。この点だけは、あの田舎の故郷の優れていた点だと思う。どうやらああいうお風呂の設備は一般的ではなく、バスタブで家にお風呂を持っているのがこの辺りの文化のようだった。確かに、他の人とお風呂に入って裸を見たり見られるのはちょっと嫌だったけど……冬が近づいてくると、あのいつでも温かい乳白色のお湯だけがたまに恋しくなる。

 そんなことを考えながら薬液を煮ていると、魔力の含んだいい乳白色の液体が出来上がっていた。魔法で火を消して、魔法を使って少し冷ます。


「できたよー」


「ありがとうございます!」


 バスタブに薬液を張ってから手を入れ、ほこほこと温かいお湯の温度がちょうどいい具合に冷まされたことを確認した。ルイスを呼び寄せると、彼は「マスター、僕見られるのはちょっと恥ずかしいです……」と言うので、「じゃあ他の事してるから」と言って席を外す。といってもこの家は部屋数がさほどないから、少し目線を外すだけだった。


「あったかいです、マスター……」


「それはよかった」


 おどけたようにそう言って、私は薬草を種類別に仕分ける。ルイスは特殊な《ドール》だと言われても、お風呂に入って気持ちよさそうにしている姿は、お師匠様の《ドール》達とも何も変わらなかった。

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