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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
35章 クロスステッチの魔女と魔都の生活

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第805話 クロスステッチの魔女、新しい仕事を受ける

 依頼を貼り出した板が壁に貼ってあって、そこには様々な羊皮紙に頼まれごとが書いてある。そういう仕組み自体は人間の冒険者でも同じらしいけれど、魔女の場合は相互扶助であり、先達と新米の間に繋がりを作るのが主目的とも言えた。お金は実は、ついでのような依頼も多かったりする。


「さすが魔都、簡単な糸紡ぎや採取のほとんど依頼がない……」


 四等級用の依頼をちらりと見てみても、近くの山から採ってこれそうな依頼なんてなかった。知らない名前か、ここから少し距離がある場所でしか手に入らないような物の名前が並んでいる。簡単な依頼ならそれぞれの支部で、昔の私のような新米の魔女に任せられているのだろう。魔都を行き交う魔女の中に、青い首飾りを見ることはほとんどない。


「マスター、これなんてどうですか?」


 ルイスが指差した依頼には『街灯用に、《灯火》の魔法を十』とか『《浄水》の魔法を十五』とか、魔法そのものの納品が並んでいた。魔都を維持するための意外なものを見た気がして、ひとつを手に取ってみる。


『《灯火》の魔法を十、手本と同じ光量で作ること。光量が指定より多すぎても少なすぎても、報酬は減額されます』


 依頼人の名前を書くところには、『魔女組合』と書いてあった。報酬は魅力的な分、減額要素が多いらしい。赤文字の注意書きの中には、『街灯用なので、指定した大きさに魔法を作ること』ともある。魔女組合でたまに魔法を納品する時は、ここまで細かい指定はなかった。


「《複製》の魔法とか使わないのかしら」


 そう呟いたのが、受付の魔女に聞こえたらしい。横から声が入ってきた。


「《複製》の魔法にも限度がありますから、数が必要なこういう魔法は依頼になっているんです。組合員の魔女がこれを延々作り続けるのも大変ですからね。よかったら、受けてくれませんか?」


「……お手本をくれるなら」


 あっという間に私の手には、お手本の魔法が渡された。このお手本は編み物の魔女が作っていたらしく、柔らかい毛糸の感触。


「あの、刺繍のものはありますか?」


「すみません、私達に渡された手本はそれだけなんです。飛び切りいいものが作れたら、次の魔女に渡される手本があなたの魔法になるかもしれませんよ」


 これもひとつの勉強かもしれない。私は改めて依頼を受けることに決めて、まずは借りた魔法をカバンに入れた。それから、すぐに達成できる納品系の依頼をいくつか取っては、カバンに入れていた素材から出す。たちまち小金が手に入って、針を買うお金もかなり賄えた。

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