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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
34章 クロスステッチの魔女はお上りさん

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第802話 クロスステッチの魔女、少し休憩する

 冗談のように、スルスルと革を針が通る。革縫い針にしたって、あまりにもあっさりと。薄手の布で小物を仕立てるような調子で、簡単に一辺が縫い合わせられた。


「今度買いに行かないと……」


 そんなことを呟きながら、私は次の一辺を縫い始めた。四角かった革に、刺繍をした布をつけて、それをカバンへと仕立て上げていく。小さなカバンだから、角は少しやりづらかったけれど……それでも革のあまり切れで持ち手まで作り終えた時、窓の外を見ると、日が高く上がってお昼時といった頃合いだった。午後のお茶の時間くらいまでは、かかると思っていたのだけれど。


「よし、カバン完成! 少し食べたら、みんなにも作ってあげるからね」


「ありがとうございます!」


「楽しみー」


「わたくしにもかわいいカバンがいいですわ」


「キーラさまがくださるなら、なんだって素敵です」


 みんなに褒められると、それが主君への言葉だとしても嬉しくなる。部屋から出て食堂の方に行くと、魔法で保温されているらしい魚の香草焼きが何個か置かれていた。丁寧に書かれた紙片には『ご自由にどうぞ』と書いてある。魔法で作ったパンも籠に盛ってあるから、両方をありがたくいただくことにした。

 みんなの分の魚を分けようかと思ったけれど、よく見ると香草焼きのお皿の隣に『ドール用』と書かれた札がある。その下には、小さな皿に乗った小さな魚の切れ端があった。数もそこそこあるようだったので、みんなの分を一皿ずつ取っていく。


「さすが、魔女の宿ですね」


「こんなものまで用意してあるなんて、後でエリーにお礼を言わないと」


 そんな話をしながら、少し辛いソースのかかった白身魚のふっくらした身を切って、ちぎったパンに乗せて食べる。これはおいしい。家でも作れるようになりたいもころだけれど、ソースの中に食べ慣れない香辛料の辛味があった。これは少し苦手だから、本当に家でやるならこれは抜きたいな……やけにつんと、鼻に来る香りだ。多分、正体はこのギザギザとした葉っぱなのだろう。それを除いて口にしてみると、食べやすくなった。


「……まあ、お残しなんてできないわよね。アワユキも残しちゃダメよ、失礼にあたるから」


「なんかこの葉っぱ辛い〜」


 そんなもったいないことはできないので、今回はこのギザギザ葉っぱも込みで香草焼きを食べることにした。アワユキは……あ、ルイスのお皿に入れた。私にはバレてないと思っているらしい。ルイスは少し顔を顰めつつ、優しいから、食べてあげているようだ。とりあえず今回は、見逃すことにした。

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