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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
34章 クロスステッチの魔女はお上りさん

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第800話 クロスステッチの魔女、新しい魔法に挑戦する

 革を買って宿に戻った後、革縫い針と手持ちの布、糸を広げて魔法の一覧を眺める。どの魔法を作るのがいいか、何を作るのがいいか。この時間は、いつも楽しくて好きなものだった。私が魔女をしている理由。美しい物を手で作り出す喜び、そのための準備の時間。


「……よし、これで!」


 私がまず決めたのは、魔法の刺繍を内布としたカバンを作ることだった。数は四つ、みんなの分だ。元々袋物は渡してあるけれど、今回は牛革で、私に似たカバンを作ってみることにした。牛とはいえ柔らかめの革なので、多分、なんとかできるだろう。


「ルイス、ラトウィッジ、紅茶を用意しておいて」


「はあい」


「わかりました」


 まずはカバンの大きさを決めて、それに合わせて魔法に使うための布を切り出す。それから、それより一回り大きく牛革に印をつけて、これも鋏で切る。お師匠様がくれた布切り鋏には魔法がかけられているから、今回くらいの革なら切れるのだ。もっともそれは、刃がそれなりに大きいからできていることなので、革縫いには専用の針と目打ちによる先の穴あけが必要だと思っていた。借りた針では本当に目打ちが不要なら、普通の布を縫うように気軽に革細工を作ることができる。


「マスター、お茶が入りました」


「ありがとう」


 淹れてもらった紅茶を飲んで、気持ちを落ち着かせる。それから中心の場所を決めて、手に慣れたいつもの針で魔法の模様を刺し始めた。蔓紅薔薇と蔦白薔薇の花びらの絞り汁で染めた二色の魔絹の糸を使い分けつつ、時折、魔銀を伸ばした糸を混ぜる。《ドール》の大きさに対して合わせるくらいであれば、私にとってはかなりの贅沢品である魔銀の糸を使った刺繍も作ることができていた。


「ところで主様―、これは何を作っているの?」


「私と同じ、《空間拡大》……はまだやっちゃだめだから、ちょっと強い《保存》の魔法がかかったカバンよ。といっても、過信はできないけれどね……それくらいじゃないと、今の私には作るお許しも出ないし」


 こんな場所で魔女の掟に引っかかるようなものを作った日には、すぐ捕まってしまうだろう。空間を弄る魔法よりは、中身が悪くならないように留める魔法の方が容易い。もっとも、これも術者の力量は如実に出てしまう魔法だった——この世で最も有名な《保存》の魔法は、密閉された硝子の中で永遠に咲き続ける一輪の花だと言われている。たった一夜だけ咲いて散るはずの花を、永遠に留めた魔法。そこまでは行けなくても、今の私なら前より良い物は作れるはずだった。

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