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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
34章 クロスステッチの魔女はお上りさん
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第794話 クロスステッチの魔女、魔都の魔法に触れる

 身体を洗う用と拭く用、それから顔を拭くのに、と渡された布の三つをカバンに入れて外に出てみると、それほど長い時間を過ごしたつもりはなかったのに、外は薄暗くなっていた。夕食の時間を考えると、そろそろ宿に戻った方がいい頃合いかもしれない。来た道を戻ろうと歩いてきた方角に足を向けたところで、心配になった私は事前に用意していた魔法の布に魔力を吹き込む。


「……探せ」


 魔法に探させるのは、私が宿の部屋に置いていった魔法だ。布はいつものように、ひとりでに折り畳まれて蝶の形になる。それからいつもであれば、すぐに案内を始めるのだけれど……今回は少し、様子が違った。

 蝶は迷うように、しばらくぐるぐると飛んでいた。その様子は蝶というより、自分の尻尾を追いかけている犬に似ている。何度か回っていたかと思うと、蝶は私を導くように飛び始めた。


「とりあえずついていって……ダメそうなら、最悪その辺の人に聞けばいっか」


「ここは魔女がたくさんいるところだから、魔法がうまくいかなかったんですかね?」


 首を傾げるルイスも一緒に、五人でゾロゾロと移動する。時折、魔女の何人かはこちらを見ているようだった。でも、何も言わない。悪意は感じなくて、見守られているような感覚があった。


 《探し》の魔法は本来、道を問わない。道を見て取るなんてことができないから、例えば歩いていて他人の家を突っ切るような道でも、容赦なく提示してくる。幸いにも私達魔女の方で家を回り込んだりすれば、その分は合わせて示してくれるけれど……今回は不思議と、そんなことがなかった。蝶はずっと、お行儀良く道の上を飛んでいる。他にも大きなカバンを箒の柄にかけて、魔女も飛んでいる。まだ急ぐほどの時間ではないから、私は歩いているけれど。


「ただいま戻りましたー」


「あら、いい頃合いに。もうすぐお肉が焼けますよ」


 丁度いい頃合いだったらしい。私は魔法が解けて布に戻った魔法やカバンを部屋に置いてから、宿の夕食を食べることにした。脂の乗った鳥を香辛料のタレに漬けて焼いたものを、パンに乗せていただく。もちろん、《ドール》のみんなにもこの食事を出してくれた。


「……そういえば、ここに戻ってくる時なんですけど。道が心配で《探し》の魔法を使ったんですが、なんだかいつもと違ったんですよね」


「ああ、くるくる回りました?」


「回りました」


 私が頷いてそう言うと、彼女は「それは魔都の建物にかけられている魔法ですね」となんでもない顔で教えてくれた。

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