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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
34章 クロスステッチの魔女はお上りさん

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第788話 クロスステッチの魔女、宿屋に泊まる

 『三日月と黒猫亭』は、魔都らしく洒落っけのある建物だった。三日月の弧をベッドに丸くなって眠る黒猫の絵の看板には、飾り文字で宿屋の名前が書いてある。細長い建物は二階や三階があるようで、窓にも上品な枠飾りがついていた。蔦が絡んだ赤茶色の煉瓦は、綿を糸に捻る時のように、渦を巻くように並べられている。黄色を基調に濃いものや薄いものを並べてふいた屋根のタイルは、なるほど宿屋の名前を考えるなら『三日月』なのかもしれなかった。


「マスター、猫がいます」


「かわいいー!」


「猫は初対面の人には、あまり触らせてくれないものよ。猫もびっくりしちゃうから、見てるだけになさいな」


 玄関から入ろうとした時、扉の側の窓辺で丸くなっている黒猫に気づいた。猫は私達の話し声に気づいたのか、くわあ、と大きな欠伸をする。すべての毛が炭で塗ったように真っ黒で、目は、深い紺色をしていた。


「ごめんくださーい」


 猫を起こす心配がなくなったので、そのまま扉を開ける。扉に取り付けられていた銀色の鈴が、からんからんと音を立てて鳴った。飴色の木で作られた机や椅子がいくつか並んでいて、細かい彫刻の施されたカウンターには魔女がひとり、客を待っている。


「この紅茶屋さんに、宿屋としてここを勧められました。しばらく泊めてくれませんか?」


「あら、これはお若いお客様。ええ、お部屋に空きはございます。いつまでお泊まりで?」


「ひと月前後かしら。もっと早いか、遅くなるかも……魔都を見て回りたいから」


 かしこまりました、と言ったカウンターの魔女に首飾りを見せるよう言われたので、首を近づけて見せた。念のためだろう、本物と確認した彼女は頷くと、「お名前と流派、等級を」と聞いてきた。


「刺繍の一門がひとり、リボン刺繍の二等級魔女アルミラの弟子、クロスステッチ三等級魔女キーラです」


「はい、キーラさんですね。私は『三日月と黒猫亭』の主、彫刻一門のひとり。木彫りの二等級魔女エリーです。魔女なら長逗留も考えて、料金は後払いになります」


 人間と魔女では、料金が違うらしい。というか、人間なんて来るんだ。


「人間がどうやって、魔都に来るんですか?」


「好事家や商人の一部は、魔女の箒に乗せてもらってここに来ます。彼らは良いお客様ですが、瞬き程度の時間しかいませんから」


 何せ、魔都は空の都市。魔女の機嫌を損ねてしまったら、たちまち出られなくなってしまうのだ。飛び降りたら死ねる高さなので、どんな荒くれ者でも大人しくしているとエリーは笑った。

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