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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
34章 クロスステッチの魔女はお上りさん

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第786話 クロスステッチの魔女、魔都の紅茶屋に行く

 魔都の白く磨かれた石畳の上に、そっと着地する。私が上がってきたことに対して、周りから何かの反応が起きることはなかった。ここは魔女の都、皆、そういう人には慣れているのだ。黒い服が多いけれど、それ以外の服の魔女もいる。


「すごい、本当に全部魔法の品だし、魔女ばっかりだわ……」


 《魔女の夜市》でも同じような光景が広がっていると言えばいるのだけれど、魔都は訳が違う。規模が違うのだ。視界一杯に魔女や魔法の品が並んでいるという点だけでは同じかもしれないけれど、こちらでは、《魔女の夜市》の何倍、何十倍もの魔女と魔法の品があふれていた。私の見えないところからも、沢山の魔力を感じる。魔法の気配と、女の高い声のざわめきと、時折混ざるのは……鳥か何かの鳴き声。羊のような声もする。魔法の生き物を売っている店でもあるのだろうか、と思いながら、私は視界に入るいくつかの店を見渡した。とりあえず一軒のお店に入ろうかと思っていると、ティーポットの絵が描かれた看板を見つけた。紅茶の葉は必要だったのだ。すぐその店に向かう。


「いらっしゃいませ」


「うわあ……」


 馴染みの紅茶屋も広いと思っていたが、明らかに広さが違う。沢山の茶葉が入った硝子製の瓶が大量に並び、ティーポットやカップと言ったお道具も多く並んでいた。これは、あの店にはなかった品揃えだ。あそこの店は、紅茶の葉しか売っていなかったから。


「ええと、沢山お茶を飲むから、買いやすい値段のものが欲しいんだけど」


「お好みはありますか?」


「そんなにないんです。いつもは慣れた味がありますが、せっかく魔都に来たんですもの、いつもと違うものが欲しくて」


 私は店員の魔女にそう言いながら、色々な紅茶のもたらす甘い香りを心地よく嗅いでいた。様々な国からやってきた茶葉や、魔力のある茶葉もある。それらの中から何種類かの茶葉を店員が出してくれて、私はそれをありがたく受け取って説明を聞くことにした。


「こちらのアッシュの春摘みは、春に摘み取った一番新鮮な茶葉を魔法で保管したものになります。隣も同じ茶葉ですが、こちらは魔法では保管しておりません。それゆえの深く、時間の経った味わいがいたします。それとご予算の問題はあると思いますが——魔都らしい紅茶として一番愛されているのが、この三十年物の魔紅茶でございます。魔都で魔力を吸って育まれた茶葉を摘み、蒸した後、三十年寝かせております。これは魔都の外ではあまり、扱われない品ですね」


 最後のお茶が一番気になっているけど、問題は予算だった。

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