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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
34章 クロスステッチの魔女はお上りさん
785/1032

第785話 クロスステッチの魔女、魔都に到着する

「魔都は古い歌で、『影無しの都』と呼ばれている。そう聞いてはいたけれど……」


「あっ、本当だ。影がありません!」


 空を浮いている都には、本来あるべき影がなかった。黒い影が地をべったりと覆うようなことはなく、地面には青々とした草地や、家々が広がっている。都の下には時折そこに暮らす人間がいるけれど、町や村というほどのものにはならないという話も思い出した。事実、家々に人の気配はない。もう住人はいなくなっているのだろう。


「影もないし、あの無数にかけられた魔法のひとつによって、魔都に降る雨や雪や雷は、全部下に落ちるんですって


「魔都へ入るのに、決まった道とかはあるんですか?」


「特にないわ。魔物への守りはあるけど、魔女には効かないもの。普通に飛んでいけばいいだけ」


 魔都は空にある。それが、何より強い防御だ。まだターリア様の御位が正式ではなかった頃、一度だけ、人間が侵攻を企てたことがある。その時も空を飛ぶ都市にどうすることもできなかったのは、戯れ歌として残っていた。


「蝋の翼を両腕に、ってする必要もないからね、魔女は。ちょっと普段飛ぶところよりは高いかもだけど、それだけだわ」


 実際の高さは……よくわからない。目はいい方なのだけれど、比較するのに不十分な状態では高さの目測がつかないのだ。雲を纏っているので、それなりの高さだろうと判断することしかできない。


「マスター、実はもうお茶の葉がほとんどありません。今夜に十全なお茶をお出しするためにも、今日中には魔都にお着きするのがよいかと」


「そうね。じゃあ、普段より縦に飛ぶから、落ちないようにしてね」


 私は魔力を箒に込め直して、縦に飛び上がった。いつもなら、上に昇る時は坂を登るように、前に進みながら浮き上がっていく。でも、今回はそれをしていたら魔都の下の岩にぶつかりそうなので、なるべく前に進まず、上に上にと浮いていくことにした。慣れないことをしているから、箒も心なしか不満そうにしている気がする。前に進みたがっているのを、押さえている感じがするのだ。

 時折前には進めつつ、それでも、上へ、上へ。そんなのをしばらく続けていると、魔都の姿が本格的に見えて来た。大きな建物がいくつかと、立ち並ぶ家々に、店に並べられた普通の店には並ばない品々。魔女が降り立つための広場には噴水が吹き上がり、どれもしっかりとした石畳となっている。石に魔法かそれ以外か、彫刻を施してある場所も多い。

 これが、魔都と呼ばれる場所の光景だった。

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