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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
33章 クロスステッチの魔女と大雪の冬

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第774話 クロスステッチの魔女、人々に縋られる

 あまりにも手を伸ばされるので、私は魔法でパンを作ることにした。何個も何個も、今使っているパンの魔法でパンを出した。ある種、彼らの空気にあてられていたのかもしれない。ルイスはずっとピリピリしていたし、アワユキとキャロルは私の服に隠れていたし、ラトウィッジも厳しい顔をしているのは、私の視界の隅に入っていた。


「キーラさま」


 こそ、とラトウィッジが私の耳に囁いてくる。私は目の前の人にパンを渡していて、次のパンのために魔力を込めながら「なあに?」と聞き返した。


「アルミラさまを呼んできます。ルイスのあにさまがそれまでの間、キーラさまをお守りするって」


「守ってもらうほどのことじゃないし、お師匠様を呼ばなくても……」


「絶対そうするべきって言ってました」


 そう言って、ラトウィッジは私が止めるより早く、ふわりと飛んで行ってしまった。空気を蹴って、矢が飛んでいくように素早く飛んでいく。いつの間にか、あんなに上手になっていたなんて。


「早くおくれ! うちの子がお腹を空かせているんだ!」


「ああ、ちょっと待って!」


 ついつい感慨にふけっていると、誰かに急かされて私はまたパンを作り始める。大きめのパンを一、二個作って渡して帰る人もいれば、まだ帰らずにもっともっとと手を伸ばしてくる人もいる。


「おい、お前さっきお弟子様からパンもらっていただろ! 帰れよ!」


「これは母ちゃんの分なんだ!」


「あぁあなんか揉めてるけどどうしようこれ……」


 生憎と、私は集団で揉めている人達を仲裁することなんてできない。やったことないし、どっちの見方をするべきかもわからないからだ。その間にもパンが欲しい人、もう貰っているのに欲しがるけど理由があるという人、それを怒る人、もうなんでもありで、私の判断力も鈍ってきていた。とりあえず、パンを作って目の前の人に渡すことしかできない。


「マスターに危害を加えるようなら、お覚悟ください」


「ルイス、みんな一生懸命なんだから剣を抜こうとしないでね!?」


 人ごみの向こうでは、揉める声が大きくなっている。「魔女様がパンをお配りしているんだって」という言葉に、さらに人ごみに参加する人が増えているのがわかった。どうしよう、なんだかとんでもないことをしてしまった気がする。こうも人が沢山いる中では、箒に乗って飛び上がることもできない。場所がないからだ。


「……まったく。今度は一体、何をしているんだい」


 しばらく必死になってパンを作って目の前の手に渡していると、上からそんな声が振ってきた。

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