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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
33章 クロスステッチの魔女と大雪の冬

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第773話 クロスステッチの魔女、春先の街で頼まれる

 しばらく山を満喫してから、遠目に見下ろすくらいならいいだろうかと思った私は街に向かうことにした。読み書きに不自由した頃の私を知る、老齢に近い人々がやっぱり心配だったのだ。今年は珍しいほどの大雪だったから。お師匠様が珍しがるということは、百年単位で起きていない珍事のはずだ。


「あっ、魔女様の箒だ!」


 軽く見て戻るだけのつもりだったのに、誰かが私の箒を指差した。手招きされているの見える。


「何かあったのかしら」


「パンを作って欲しいとかじゃないですか?」


 それは一番ありそうな話だった。無視をするのも悪いので、ゆっくり降りていくことにする。辺りの家々から、三々五々に出てきた人々によって降りる場所には少し悩んだが、なんとか無事に降り立つことはできた。

 ……人々は皆、疲れて痩せこけた顔をしていた。春告げ鳥の声と暖かい光が、どんな最上の幸せよりも幸せではないかという顔をしている者もいる。


「アルミラ様じゃないぞ」


「お弟子のキーラ様だ」


「それでも、お縋りするしかない」


 なんだか不穏な言葉が聞こえて、箒から降りたのは間違えたかもしれないと背筋が少し寒くなった。ルイスが何気なく、剣の柄に手を伸ばしたのを止める。


「それで、何が必要なの? 何か頼みがあって、私を呼び止めたんでしょう?」


「……パンを、パンを出してください」


「パン屋のアランも、粉がなくてはパンが焼けないのです」


「彼が材料を置いていた小屋が、大雪で潰れてしまいました」


「食べ物もギリギリで」


「コインなんて齧れやしない!」


 思っていたより、街は深刻な状態のようだった。痩せこけた手が何本も突き出されてパンをねだるので、とりあえず私はカバンから《パン作り》の魔法を出す。


「と、とりあえずパンを出すけど、こんなに大勢に足りるかしら……」


 《砂糖菓子作り》の魔法より、《パン作り》の魔法は多くの魔力を必要とする。塵も積もれば山となるし、何より、そんなに沢山この魔法の予備は持っていない。


「魔女様!」


「魔女様、お願いします!」


 お師匠様はどうしているのだろうか。お師匠様なら、どうするのだろうか。魔女が人を助けすぎてはいけないと言うけれど、きっとここにいない人達は、もっとお腹を空かせているに違いない。……あの、老齢に差し掛かった紅茶屋の姿が見えないことが気になった。秋には、それまでは普通に声をかけてくれた人たちが、一定の敬意をやめて私に縋りつこうとしてくる。それをどこか恐ろしく思いながらも、気持ちもわかってしまった。

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