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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
33章 クロスステッチの魔女と大雪の冬
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第764話 クロスステッチの魔女、カバンの中身を開ける

 しっかり熱いお風呂に入って、髪をよく梳かすと気分はさっぱりする。それで心地よいまま、翌朝、私は目を覚ました。簡単に朝のパンを食べた後、机を綺麗にしてから、もう一度冷たい水で顔を洗って気合いを入れる。


「よしっ……!」


 必要なものはたった二つ。カバンの中身を広げられるだけの場所と、それから何より私の覚悟だ。


「主様がんばれー」


「がんばるう……」


 カバンの中に手を入れて、指先が触れたものを片っ端から取り出す。書いてみると簡単なのだけれど、やってみると全然簡単ではなかった。


 まず、ひとつ目。指先に触れたのは、慣れた革袋の感触だった。私のお財布だ。中身を広げて余計なお金や大きい硬貨を壺に入れ、普段のお買い物で使う細かい小銭だけにしておく。鉄貨と銅貨で十分、日々のお買い物には事足りる。予備の銀貨一枚は、今までと同じように革袋の内側に縫い込めておくことにした。いざという時のお守りだ。色んな意味で。


 二つめは、裁縫箱。木製の表面は後で磨いてあげようと決める。人間の仕立て屋ならちゃんとした裁縫箱には持ち手をつけて持ち歩くものだけれど、魔女の裁縫箱には必要がない。私の裁縫箱ならカバンの中に入れていられるし、お師匠様の裁縫箱なら自分で飛べるからだ。針や鋏は、冬の間に久しぶりに手入れをしてもいいかもしれない。負担をかけるようなものは切ったり刺したりしていないつもりだけれど、大事な道具を長く使うには手入れが必要だ。

 それから三つ目には引き出したのは、さまざまな素材や色の糸束をまとめたもの。確か、刺繍の途中で使いかけた糸は裁縫箱の中に入れていたはずだ。これは自分で紡いだり買い求めたりした糸をまとめておいて、使う時に楽に取り出せるようにした……んだと思う。確かそうだったはずだ。白黒赤青といったよく使う色に染めた魔綿糸や、ちょっと珍しい魔絹糸とかも出てきた。絹の方は確実に買ったんだろうけど、いつ買ったのかまーったく覚えていない。


「いつ買ったのかしらこれ……白練の魔絹糸ひとかせ……」


「貰い物とかではないんですか?」


「貰い物を忘れてた方が怒られるし、流石に覚えてるはずよ」


 買うにも貰うにも安い物ではないから覚えてるはずだ、と必死に記憶を漁ると、なんとか出てきた。独り立ちしてすぐ、まだルイスを買う前の頃。家具を買いに行ったりした時、ついでに「いつか使うと思うから!」と言って買っていたもののひとつだった。他の魔絹糸もそうだったと思い出し、いつか使おうと決意を新たにする。

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