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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
33章 クロスステッチの魔女と大雪の冬

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第753話 クロスステッチの魔女、新年の祝いをする

 干し肉と凍らせた挽肉を戻してから入れて、卵黄を頭に塗って焼いた包み焼きのパイ。干し果物を生地に入れて数日置き、味をなじませて膨らませた甘パン。たっぷりの具と牛乳で作る、贅沢な真っ白いシチュー。

 急に一人増えたとはいえ、それなりのものが作れたと思う。並べた食事の満足感に、私はうんうんと一人で頷いた。ジャックが作ってくれた革の花が、机を彩る。私だったらひとつかふたつ作って終わっていただろう花が、沢山咲いていた。


「ジャックったら、こんなに器用に革が切れるなんてすごいじゃない」


「そう、ですかね……普通です。でも、楽しかった、です」


 私や《ドール》の皆に褒められる度に、照れて小さくなるジャックはかわいいものだった。慣れていないのか、普通に当たり前だと思っているのか。


(どう考えても、ジャックは元々職人よねえ)


 私が近くで裁縫箱を広げても反応はなかったし、多分、革細工の職人だろう。手指の曲がった人間は珍しくないが、眠ったままのジャックの指を凍りつかないよう動かしてやっていた頃、タコがあることには気づいていた。


「それじゃあ、色々作ったの。みんなで食べましょっか」


「わーい!」


 私が慣れた手つきで包み焼きパイを《ドール》のみんなに合わせた大きさに切り、それから自分とジャックの大きさにも合わせて切る。その様子にジャックの手が浮いていたのは、何か手伝おうとして言い出せなかったらしい。結局、大人しくパイを受け取っていた。

 ジャックは手を組んで少しお祈りをしているようだから、その様子を見てから私達も軽く手を合わせて、食べ始める。……うん、おいしくできた!


「おいしい……」


「マスター、これ好きです!」


「いい匂いがするから、これ入れてパン作って!」


「たまにはこういう贅沢もいいですわね」


「キーラさまのお料理、すごくおいしいです」


 ジャックやルイス達にも好評で良かった。確かに、少し奮発して香辛料は多めに買っていたのが、いい仕事をしてくれているようだ。もっと気軽に買えるといいのだけれど、中々そうはいかない現状がある。胡椒とかって、《魔女の箱庭》で育てられたりしないかなあ。今度、覚えてたらお師匠様に聞いてみよう。育てることができたら、胡椒使い放題で年中ご馳走みたいにできるし。うん、そうなれたら、とっても素敵だ。


「魔女でも、新年を祝うとは思いません……でした」


「私はまだ、人間だった頃の風習とかを残しがちなだけかも」


 それでも人間だった頃なら、こんな贅沢は新年でもできなかった。


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