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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
33章 クロスステッチの魔女と大雪の冬

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第744話 クロスステッチの魔女、来客を受ける

 私が出来上がったインクの様子を眺めて、もう少し置いてから試し書きをしようかと考えていた時のことだった。魔法が発動した気配と、鈴が鳴るような涼し気な音がする。


「マスター、この音は……?」


「誰か来た音だわ。この吹雪の中で?」


 でも、結界にかけておいた訪問者検知の魔法が作用している。身を護るための魔法を念のために確認してから、扉を開けるため苔を取った。体を暖めるための魔法や、寒さを除けるための魔法もかけるし、予備も懐に入れて持っていく。


「主様、助けてあげるの?」


「この吹雪だもの、下手に出歩いたら死んじゃうわ。というか、行き倒れている可能性があるし。家の前で誰かが死んでいるのは、寝覚めが悪いでしょう」


 純粋に自分のためだ。そんなことを呟きながら扉を開けてみると、たちまち猛吹雪が吹き込んできた。玄関に白い雪が入って来るのと同時に、どさり、と何かが倒れ込んでくる。


「ぅ……」


「なんでこんな吹雪の中、出歩いているのかな!?」


 いやあ、本当にいるとは思わなかった。正直ちょっとくらい、魔法の誤作動とか、動物か何かの誤検知じゃないかなと思っていた。それが本当に、人間だった。男だし、魔力もない。ふかふかした毛皮のマントを着ているようだけれど、この吹雪ではあまり役には立っていないようだった。とりあえず引っぺがすと、色の薄い金髪と青ざめた唇、そしてそこそこよさそうな顔が見える。心臓が動く音と、命の気配。生きてはいるようだ。


「みんな、この人を暖炉の傍に運ぶからちょっと場所作って」


「はい、あるじさま」


 暖炉の前にこまごまとしたものを置いていたので、それらを片付けてもらって人間を寝かせる。といっても、私の力と背丈では完全に持ち上げることができなかったので、多少引き摺ったのはご愛嬌ということで。人間の背丈が高かったのが悪い。


「それにしても、猛吹雪はもう何日も続いているじゃないですか。どうしてこの人、キーラさまのところに来たんでしょうね?」


「普通だったらまず、命が惜しくて外に出ようとさえしないと思うのよね……とりあえず苔詰めるの、やり直さなきゃ」


 扉を閉めて苔を詰め直し、部屋全体を暖める魔法をかけて、吹き込んだ吹雪と寒さを追い散らす。元通りの空気になってから、お茶を淹れてもらった。


「マスター、この人、起きますかね?」


「うーん……とりあえず温めてみるかな」


 暖炉の前に置いた人間がどうなるのか、しばらく様子を見ることにする。蜂蜜酒をお湯で割ってあげようかしら、なんて考えたりもした。

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