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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
33章 クロスステッチの魔女と大雪の冬

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第739話 クロスステッチの魔女、お師匠様と話す

 冷えてきたので、薪を一本足す。外からはガタガタと窓を叩く、嬲るような風の音が聞こえていた。随分と久しぶりの吹雪だ。


「外からすごい音がしますね、マスター……」


「まあ、外は吹雪だろうからねえ」


 魔女になるために山を降りて、この辺りに移り住んでもう二十年以上が経つ。


「最初の冬、いくら魔女だからとはいえお師匠様の備えがあまりに軽くて驚いてたら、かわいい量の雪しか降らなかったことを思い出すわねえ」


「主様が見習いだった頃ー?」


「そうよ、まだ人間だった頃」


 あんまりにもあっさりと、平地の冬が終わった日のこと。慣れ親しんだ骨身に染み入るほどの寒さも、軽く凍りかけた食糧もなく、蓄えが尽きるのが先か雪が溶けるのが先かと指折り数えることもない。


「『こんなにあっさり終わるなんて、平地の冬は冬じゃないですね』って言ったら、お師匠様が大笑いしてたっけ。毎年冬の備えはしているけれど、人間だった頃に比べたら少ないのよ」


 つい癖で集めていた苔は、今家の隙間に詰め込んで役に立っているけれど。お師匠様はそういうことをしていないはずだから、少し心配だった。一人で暮らすようになって移り住んで、ここの冬は寒いと口にされていた方だ。


「連絡を取ってみたらいかがです?」


「あ、そんなことを言ってたら水晶が震えてます!」


 ラトウィッジが先に気づいてくれ、私の水晶を持ってきてくれた。それを受け取り、震える水晶の波を相手と繋げる。


『中々の大雪だね、家の扉が飛びそうだよ。あんたのところはどうだい?』


「こちらは万事、問題なく。必要な物も家の中に運び込んでますし、大丈夫です」


『まあ、そこまで心配はしてなかったけどね。昔のやり方を真似るだけで、ここでの多少の吹雪は越えられるだろうし』


 水晶の向こうにいるのは、お師匠様だった。小さな姿が、水晶の中で縮こまっているように見える。


『魔法を色々使っても、中々この寒さを振り払いきれないね。多分、しばらくは大雪と吹雪が続くだろうって予想だよ』


「このまま春まで篭っていられるだけの備えはあります、任せてください!」


 お師匠様が笑みをこぼされたのが、水晶越しでもわかった。


『やっぱり、杞憂だったようだね。雪には本当に強い子だ』


「いざとなったらお助けいたします」


 私がそう言うと、『そうなったら師匠の名折れだよ』とお師匠様は笑い飛ばした。少し前に修復を頼まれた《ドール》がいるので、その作業をしながら吹雪が止むのを待つらしい。

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