表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
31章 クロスステッチの魔女と魔法の失敗

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

717/1033

第717話 クロスステッチの魔女、お話を最後まで聞く

 ……ルイスの物語は続いた。魔女に渡すべき物を渡した娘は、継母からの頼みも魔女に伝える。それは、継母が連れてきた妹の、婚礼のためのドレスを縫って欲しいという依頼だった。上の娘がまだ、嫁に行くことも婿をもらうこともしていないのに。


「魔女はその話を聞き、本来なら先に婚礼を挙げるのはお前だろうと娘に言いました。娘は悲しい顔をして、『そんな相手もありませんから』と言います。しかし本当は、かつて言い交わした若者がいたのです。彼は街に出稼ぎに行き、帰ってきてはおりませんでした」


「それでそれで?」


 意外なことに、アワユキがその話に食いついた。色恋沙汰は、精霊には面白いのだろうか。


「魔女は対価を受け取ってしまったので、渋々といった顔でしたが、継子のための服を作ってくれました。それは雲のように白く、羽のように軽いドレスで、継母と継子は大喜びです。そのドレスを魔女に縫わせるための、娘に持たせた上等な葡萄酒などは、娘の亡くなった実母の財産から支払われました。それを娘が知ったのは、妹の婚礼の日の朝のことです。家事を押し付けられ、ご馳走を食べることもできずにいた彼女の元に、魔女がやってきました」


 ルイスがここで、少し言葉を切った。こんな場面で魔女が来るなんて、何があったんだろう?と私は続きが気になってしまう。


「魔女は言います。『お前、魔女の弟子になる気はないか。この家を出て、魔女の弟子として長い時間を生き、美しいモノに囲まれて暮らす暮らしに興味はないか』と。娘は悩みました。もちろん、気がかりなのは言い交わしていた若者のことです。継母には当然として、父にも言えなかった彼のことを、娘は魔女に打ち明けました。魔女はその話を聞くと、洗い物をしていた娘の手を取ります。

 『ならば、あたしがその男の元に連れて行こう。男がお前をまだ思っているのなら、お前は彼の元に行くが良い。しかし、忘れているのなら、お前はあたしの弟子になれ』

 娘はその言葉に頷くと、魔女は魔法で娘を見えなくしてから、簡単に数日の距離を飛んでしまいました。大きな街にはできたばかりの小間物屋があり、そこには娘の待ち焦がれた青年が働いています。その腕には、見覚えのある腕輪がしてありました。娘の贈った、赤く染めた草を入れて編んだ腕輪です。魔女はお客のフリをして、若者に腕輪のことを尋ねます。若者は笑って、『これは故郷に残してきた恋人からの贈り物です。この店が軌道に乗ったら、彼女を迎えに行くんです』と答えました」


 娘は若者と幸せになれそうな予感に、私は少し微笑んだ。やっぱり、お話は幸せな終わり方の方がいい。


「魔女は自らの勝負に負けたことを認め、若者に娘を与えました。そして二人の婚礼の日には、継子に縫った物より上等なドレスを贈ったといいます」


 それから二人は故郷に帰らず、幸せに暮らしました。そう言って、物語は終わった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ