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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
31章 クロスステッチの魔女と魔法の失敗

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第716話 クロスステッチの魔女、指の色が抜ける

 気づけば、夜は白んで朝が来ようとしていた。それでも、私はルイスの語るお話を最後まで聞きたい。ただ、少しだけ待ってもらった。


「夜が明けるわ。ルイス、すごく続きが気になるけど、ちょっと待って」


「はい、マスター。指の色が抜けたか、確かめられるべきかと」


 それぞれにルイスの話を聞いていた皆も、私の鉢を覗き込みに来た。夜の闇が柔らかい白い光に追い払われて、窓から朝の光が差し込んでくる。私は、ゆっくりと指を鉢から引き抜いた。気を急いたら、儀式は失敗する緊張感がある。


「色が……元に戻ってる!」


 根元まで銀色だった私の人差し指は、元の肌色に戻っていた。安堵につい、ほっとため息が漏れてしまう。よかった……ちゃんとできていて、本当によかった!


「指、変な感じしませんの?」


「しない、しない!」


「でも爪の先っぽ、まだ少し月の感じがするよ?」


「えっ」


 アワユキに言われて、しげしげと自分の爪を見る。……他の指の爪とくっつけて見てみると、確かに少し、ほんのりと銀色が乗っているように見えた。爪を染めたことはないけど、こんな感じなのだろうか。


「……またこの鉢に浸したら、キーラさまの爪の色、取れませんかね?」


「うーん、ダメだと思う」


 私が指を出したところから、すぐに煙は鉢から出ていった。後には水晶と星屑石が残り、それらは私の指から抜けた銀色に染まっている。これはこれで、使い勝手がありそうだ。一応、染めてない布を取ってきてそれで包みながら瓶に入れていく。銀色に光る水晶と星屑石を選り分けながらふたつの瓶に入れ終えると、すべての銀色はこれらが吸い取っていってくれたらしく、鉢の色は変わっていなかった。


「一応、これは使う前に洗っておくとするかあ……」


 ずっと同じ姿勢でいたから、伸びをすると体のあちこちが少し悲鳴を上げる。まあ、魔法で長々と集中していた時よりは、マシかもしれない。


「それじゃあ、紅茶を淹れてくれる? そしたらルイス、読みかけのお話を最後まで聞かせてくれるかしら」


「わかりました、マスター」


 お湯を沸かしてから、またおいしい紅茶を淹れてもらう。今度は何も淹れないで熱々の紅茶を一杯飲みながら、色の戻った人差し指を何度も折り曲げたり伸ばしたりする。うん、少しあった動かしづらい感覚も消えている。爪の色が少し変な以外、感覚はすべて元に戻っているようだった。触っても、つねっても、しっかり感じることができる。そのことが、ひどくありがたいと思えた。

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