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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
31章 クロスステッチの魔女と魔法の失敗
713/1031

第713話 クロスステッチの魔女、新月の夜を迎える

 なんだかんだと、半月なんてあっという間に過ぎて。すぐに、月のない空を見上げる夜が来た。


「よし……儀式を始めるわ」


 星屑石も、水晶も、昼間に街で買った焼き物の器も、黒曜石も、カロリナの香木も用意した。


「パンの捏ね鉢だけど、まあ、なんとかなるでしょう。指だけだし」


 まだこの器でパンは捏ねてない。魔法で出すから、その必要もそんなにないのだ。まだ魔法で出せない、高価で特別なパンを作ろうとした時には、本来の使い方をするかもしれないけれど。


「水晶と星屑石を器に敷いて、黒曜石で火を切って、香木の煙で鉢を満たす……」


 カンカン、と軽く叩いてやれば、火花が散って橙色の炎が香木の枝に灯る。手がまだ覚えてくれていたようで、すぐに火がついた。時間がかからなくてよかったと、心底思う。


「今、どうやったのー?」


「儀式の後で教えてあげるわ」


 そういえば、みんなの前ではやったことがなかったっけ。いつも魔法でやっていた私が、簡単に石で火をつけたことにアワユキは不思議そうな顔をしていた。この辺りは慣れだから、時間がかかる魔女の方が多いのだろう。あの魔法の本には、一ページまるまるを割いて火の付け方の説明があったことを、私はふと思い出していた。


「あっ、あるじさま! 煙がかなり溜まったみたいです」


「溢れてきました!」


 キャロルとラトウィッジがそう言ってくれたので、鉢を見る。いい香りのする煙が鉢いっぱいに満ちて、いかにも、といった状態になっていた。私は鉢のフチに手をかけ、銀色に染まった人差し指を最後にもう一度眺めてから、鉢に指を入れた。


「それで、このまま一晩待つ、と……まだかなりあるわよね?」


「そうですね、月はかなり上にあります」


 儀式として必要なことが終わり、後は色が抜けるのをゆっくり待つだけ、というところで、困った。片手――それも、利き手――が使えない状態では、魔法を作ることは当然できない。糸も紡げない。私は思いがけない問題に直面していた。


「こんなこと考えてる場合じゃないとは、わかっているんだけど……ヒマだわ」


 ぼんやりと空を眺めながら過ごすには、ここからだとそこまで空がよく見えない。お茶を飲むくらいしか、できることがなさそうだった。


「それでしたら、何か読んで差し上げましょうか?」


 ルイスの提案に、私は頷いた。「好きなのを出してきていいわよ」と許可を出すと、本棚から物語集を取ってきたようだった。私が文字を読む練習のために、お師匠様がくれた分厚い本だ。適当にめくったルイスが、お話を読み始めた。

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