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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
31章 クロスステッチの魔女と魔法の失敗
706/1032

第706話 クロスステッチの魔女、山に入る

 香油のいい香りをさせながら空を楽しく飛んでいると、日がゆっくりと暮れようとしていた。少し速度と高度を上げてみると、目的地である山が見えてきた。山脈のひとつではないから、間違えようがない。それに遠吠えをする狼のような形をしている。


「狼山、と言われてるだけあるわねえ」


「あの地図だと、この山の中どころか麓にも、人は住んでいないとありましたね」


 狼を特別な力のある生き物だと思っている人なんかは、こんな場所、恐れ多くて住めないだろう。私も少しその感覚が残っているのだろうか、正直、あんまり長居はしたくない。木と岩肌は……ぱっと見た限り、半々だろうか。


「あと、本当に狼が出るらしいです」


「前に獣と話すための魔法を作ってたあれ、カバンに入れてたっけ?」


 なかったら最低限の用事だけ済ませて、さっさと帰った方がいいのかもしれない。なんてことを思っていると、山の入り口にあたる部分に着いた。


「まだ完全にはお日さまも落ちてないし、石……はともかく、カロリナの香木の種は欲しいわ。あるいは、挿し木にできそうなの。というわけで、しばらく山登りします」


「キーラさま、大丈夫なんですか? 山って怖い場所な感じがするんですが、そんなふらっと入っちゃって……」


「迷ったら箒でまっすぐ上に上がればいいのよ。そうすれば、山頂に行くにも山を降りるにもすぐなんだから」


 魔女になってから得た、力技の解決法を教えるとラトウィッジはくすりと笑ってくれた。


「色々面白そうなものや、綺麗なものを見つけたら拾って持ってきてね。ただし、あんまり遠くまで行き過ぎないこと。ラトウィッジは今回が採取初めてだから、他の子達の様子を見たりしてみてね」


「はい、わかりました」


 夕方が近づいてきた中、《夜目》の魔法を四人に配る。日が暮れたらつけるようにと言って、私は自分のもすぐ出せるようにしながら、採取しつつの山登りを始めた。


「山ってなんかこう、気を抜いたら命がけみたいな印象がありました」


「ラトウィッジの《核》が、平地の人だったりしたのかしらね。私は山の育ちだから、魔女になる前からこういう山の中で暮らしていたわ」


 最近気づいたことがある。箒であんまり高いところまで行くとクラクラする、という他の魔女から聞く感覚が、どうにも私にはないらしいのだ。だから平気で、雲の上まで飛び出す。魔女になるまで山から降りたことはほとんどなかったから、そのおかげで高いところに慣れているのだろう。

 そんなことを考えていると、いい香りがしてきた。

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