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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
31章 クロスステッチの魔女と魔法の失敗

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第701話 クロスステッチの魔女、個人依頼の話をする

 お師匠様にお茶を淹れながら、新しいラトウィッジの紹介と、個人依頼の話をした。


「ついこの間まで見習いだと思っていたあんたが、もう個人依頼を受けるほどになるだなんてねぇ……」


 そう、しんみりとした顔で言われてしまうとなんだか照れくさいような、恥ずかしいような気がする。私の見た目は弟子入りした頃から五年か七年くらいまでは育ったけれど、そのうち止まった。見た目が変わらなくなって三年だった時は、魔力が育ったことを祝ってちょっと上等な粉のケーキを食べさせてもらったんだっけ。


「ええ。それでなんとか納品したんですが、何か、悪いことが起きるかもしれないから備えておきたいんだってことでした」


「悪いこと、ねえ……」


 詳細は教えてくれませんでした、というと、お師匠様も「そうだろうね」と言った。


「天災、戦争、疫病……色々とあるそれらを、すべてではないけれど先んじて知ることができると言う。けれど、詳細はおそらくターリア様しか知らないんだ。あたしらにできるのは、自分なりに溜め込んで備えておくことだけ」


 どうやら、時折あることらしい。お師匠様はそう言って、「それなら用意しておくかね」と言った。


「大きくお触れを出したりしないんですか?」


「さすがに魔女全員に知らせたら、人間達の混乱も招く。あの機織り機の予知は、いつになるかわからないんだよね。一年後か、はたまた十年後かはわからない。少なくとも、あたしらには知らされていない。だからそういう時に、短い時間で物を見てしまう人間に知らせると、ねえ」


 なんとなくわかる。私の感覚が、変わっていっている最中だから。


「人間が備えているうちには何も起きなくて、魔女達の予言が外れたと言われるんでしょうね。それで、すっかり元に戻ったあたりで『悪いこと』が起きると……」


「そういうこと。実は、過去に何度かあるのよね」


 ターリア様は、最初は人間諸国に予知したものを警告していたらしい。けれどそういうことが何度かあって以来、主にそれらの『悪いこと』が起きそうな地域の魔女に警告を出すことにしたらしい。いざとなったら、人間を守ったり助けられるように。


「あたしらにちゃんとした警告が来ていないってことは、多分、『悪いこと』が起きるのはエレンベルクじゃないね。別の地域でそういう予知があったから、あんたに依頼が来たんだろうよ」


「なるほど……」


「箒で遠出が好きだろう。巻き添えにならないように、しばらくは気を付けるんだよ」


 はあい、と私は素直に頷いた。

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