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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
30章 クロスステッチの魔女と納品騒動
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第692話 クロスステッチの魔女、目的を聞く

「それにしても、魔綿糸を私が納品していたと仰ったとおり……多分、それなりにあったはずですよね? それがこんなに急に必要になるなんて、何かあったんですか?」


「あなたには魔綿糸を頼んでいるけれど、他の魔女にも色々と頼んでいるの。組合として、備えを増やすことにしたからね」


 上品にカップをつまむ指先を真似ようとしたけれど、どうにもよくわからない。とにかく、何かがあったか――これからあるのだろう、というのはわかる。


「大魔女ターリア様の機織り機はご存知?」


「ええ、お師匠様から習いました」


 ターリア様は糸紡ぎの大魔女なので、そのお紡ぎになられた糸が魔法になる。そんなターリア様の特別な糸をたっぷりと使い、細工一門の最初の魔女エルミリアが作り上げた、魔法の機織り機。魔女なら誰もが習う、伝説の大魔法のひとつだ。


「あの機織り機は満月の光を浴びた夜にひとりでに動き、自然と織り出される模様からターリア様は未来を占われると聞きました」


「そう、あの魔法の精度は高くてね。機織り機が、近いうちに備えが必要と織り出したから、組合に備えを増やすよう通達が来たのよ」


 具体的に機織り機が何を予知したのかは、彼女も知らないのだという。伝説の機織り機――月光柳の白木で組み立てられ、魔銀細工が散りばめられた絵を、見たことがある。握りこぶしほどの大きさだという大きな月琥珀を嵌め込まれていて、同じ木で作られたシャトルにも小さな石がついている。そのふたつが月の光を浴びて、近くに起きる禍いを知ると赤い布を織るとか、織り目から未来を読み取れるのはターリア様だけとか、色々とあるらしい。


「それなら魔綿糸以外でも、私が手伝えることはありますか?」


「やる気は嬉しいけれど、他の魔女にも頼んでいるから大丈夫。今、報酬を持ってくるわね」


 渡された報酬の革袋には、普段中々見たことのない量のお金が詰まっていた。しかも、やや下品と思いながら一応数えると、聞いていたより多い。


「あの、多く入ってるのでこれはお返しします」


「それは急ぎでしっかり仕上げてくれたことへの、お駄賃のようなものよ。そのまま受け取ってくれていいわ」


 綺麗な銀貨はお駄賃って言わない気がするんだけど、正当な報酬だと言うならありがたくいただいておくことにした。


「私用の糸も全部渡してしまったし、私自身のためにも、備えておくことにします」


「それがいいと思うわ。いつ、何が起こるかはわからないけれどね」


 そんな会話をして、私は奥の間を出た。

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