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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
5章 クロスステッチの魔女、冒険する

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第69話 クロスステッチの魔女、山に降り立つ

 私とルイス、歯車細工の魔女とアウローラ、という二人と二体は、速度を出すのが苦手だと言う歯車細工の魔女に合わせてゆっくりと空を飛んでいた。私からすると、急いでいない時でもここまでゆっくりとは飛ばないので、なんというか物足りないところはある。けれど、《引き寄せ》魔法のない状態での飛び方をおさらいするいい練習にはなれていた。


「マスター、こうしてゆっくり飛ぶのもいいものですね。色んなものがよく見えます」


「下を見るのはいいけれど、あんまり下を向きすぎて落ちないようにね」


「大丈夫ですよ……あ、ほら、下の人たちが手を振ってますよ!」


 羊飼いが雲のようにもこもこと白い羊を連れて、頭上を飛ぶ魔女に気づいて手を振ってくれていた。呼び止めたいというよりは単なる挨拶のようなので、私もなんとか片手を開けて手を振り返す。ルイスも私の真似をした。かわいい。


「歯車細工の魔女、あなたも手を振っておあげなさいな」


「片手開けるなんて無理やぁ、箒の房で堪忍してもらわな」


 ちょっとくらいならできる私と違って、彼女はまだ苦手なようだった。そういえば、私も最初に少しだけ片手を離すのを試した時はグレイシアお姉様が側にいたっけ。……今の言い方、ちょっとお姉様みたいだったな、私。


「よぉできるなぁ、一瞬でも手を離すなんて」


「箒でよく問題は起こすけど、一応、落ちたことはあんまりないのよ。昔から、こういうのは得意だったの」


 山の暮らしに、平衡感覚は必須だった。とはいえずっとは無理だし、今回はゆっくり飛んでいるからできたところがあった。だからルイスを腕に抱いて箒を片手で乗る、というのはまだ私にはできない。


「うちも早く、できるようにならんとなぁ……」


「最初は柔らかい草地の上で、草の先っぽに爪先が触れるくらいの高さで練習すべきって言われたわ」


「あ、そんなら家の近くでやれそうやわ。おおきに、ありがとね」


「どういたしまして」


 そんな会話をしながら、私達は箒の高さを少し上げて山の上を目指した。目印になる大きなチェリーの木は、山の上の方にある。


「いい天気でよかったわねー、お天気悪い日に箒で飛べる自信がないし」


「雨除けの魔法は苦手なんやぁ」


「私は前に刺繍を刺した外套があるんだけど、どうしても雨と外套で視界が悪くなるから……前に木に激突して……」


 大きなたんこぶができた上に、お師匠様には不慣れな身で雨の日に飛ぶ馬鹿者と言われ回復魔法はくれなかったのだ。文字通り、痛い思い出という奴である。


「あ、見えてきたでー山の名物大チェリーの木!」


「あの根元に降りようね」


 二人で木にぶつからないよう、箒の高さを緩やかに下げる。やがてつま先が草に触れて、ゆっくりと土の上に立った。箒から降りて、私達は同時に同じことを呟く。


「「無事に飛べてよかった〜……」」

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