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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
30章 クロスステッチの魔女と納品騒動

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第689話 クロスステッチの魔女、糸紡ぎを終える

 新しく、というか倉庫部屋から発掘された魔綿の塊を順調に糸に紡ぎ続けて、数日。残念ながらぶっ続けで何日も何ヶ月も作業をするだけの体力はまだ私にはないので、休み休みだった。洗濯も掃除も《ドール》のみんながやってくれているので、本当に糸紡ぎだけに集中できるのはありがたい話でもある。ラトウィッジも、細々とした家事をすることにだんだん慣れてきたようだった。


「よし、今日は僕が玄関前。ラトウィッジが台所、アワユキが上の埃を払って、キャロルはマスターのお側担当でお掃除しましょうか」


「「「はーい」」」


 いつの間にか、ルイスが他の子たちに指示を出せるほどに成長していた。今日は、私が作業しているあたり以外の掃除をするつもりらしい。確かに上から埃なんて落ちてきたら、魔綿糸の中に混ざり込んでしまう可能性がある。そんなことになれば糸としての価値は下がるし、何より、魔法を作った際にどんな問題が起きるかわからない。魔綿の毛流れを整える作業は、綿を紡ぎやすくするのはもちろんのこと、小さなゴミを取る作業も兼ねている大事なものだった。


「今回の依頼の報酬で、ゴミ取り魔法の図案もらおうかな……」


 沢山の糸を紡ぐ必要のある魔女は、そういう作業を魔法にやらせたりするのだそうだ。多分、前に私に羽を依頼してきたグース糸の魔女ガブリエラ様なんかは、立派な魔法を持っているのだろう。金属製の糸車を使うほど糸紡ぎをする魔女であれば、今私がしているように手作業でゴミ取りなんてしていられないだろうし。この家では《ドール》たちも手伝ってくれていて、手が一番小さなキャロルが特に得意とする作業だった。


「あるじさま、この塊はゴミを取っておきましたわ」


「ありがとうキャロル、助かるわ」


 私に見つけきれなかったゴミをキャロルに取ってもらったり、掃除を終えたルイスにお茶を淹れてもらったり。雨の匂いに鼻がきくアワユキは天日干しの時に頼りになるし、ラトウィッジは綿の実をガクから外して摘み取るのが上手かった。そう、《魔女の箱庭》で一度収穫し終えた魔綿が、また実をつけるほどの時間が経っていた。摘みたての魔綿を袋の綿に混ぜて、質をさらに上げたものを糸にする。


 そんなことをしていたら、納期はかなり逼迫していた頃ではあったけれど……なんとか、最後のひとかせを紡ぐところまで来ることができた。


「マスター、もしかしてこの綿が最後ですか?」


「ええ。やっとここまで来たわあ……」


 休めつつもずっと紡いでいたから、指も唇も痛い。でも、達成感はあった。

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