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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
30章 クロスステッチの魔女と納品騒動
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第686話 クロスステッチの魔女、糸紡ぎを始める

 なんだか久しぶりな気がするので、糸車を軽く転がして、油を塗り込んだ。木製のはずみ車が油で艶々と光るのを確認してから、魔綿の塊をいくつかまとめ、同じ向きに毛が流れるよう調整してやる。その塊の一部をつまんで捻り、糸の先端にした。撚りをかけながら慎重に引き伸ばし、魔綿の塊を決まったところに置く。それから、決まったところまで糸端をじっくりと伸ばした。ここでうまく行かなければ、糸紡ぎそのものがやり直しになる。やっと糸が糸車を通り、本格的に紡ぐ準備ができた。


「これでも、前よりは早くなったわね」


「キーラさま、見てていいですか?」


「ええ、いいわよ。外はどうだった?」


 私がそんなことを一人で呟いていると、ルイスとラトウィッジが戻ってきた。自慢げに見せてもらった箱の中には、キラキラとした雨露の石が沢山入っている。これだけあれば、今回使った分を補ってなおあまりあるだろう。二人に「体を乾かしておいで。髪が溶けたり、服を焦がさない程度にね」と声をかけて、戻ってくるまで石を整理して待つことにした。

 拾った雨露の石は、満月の光を浴びることで石として固まり、今回の魔法のように穴を開けたりすることができる。先に棒か何かで穴を作って固めようとすると、影になる部分に満月の光が届かなくて、うまくいかないのだ。それに、扱いを誤れば丸くない、妙な形で固まってしまう。それはそれで気に入って、魔法とまでは言わずとも人気があるそうだけれど。


「マスター、乾きました! 近くで見せてください」


「ラトも、ラトウィッジも、乾きました」


 しばらくして乾いたと主張する二人をそれぞれ触れ合って確認し、大丈夫そうだったので机の上に置いた。アワユキとキャロルも見るつもりらしい。いつの間にか陣取っていた。ルイス達には過去に糸紡ぎを教えていたけれど、今回は私宛の依頼。私が自分で作るのが筋だろう。


「この依頼の糸を納め終わったら、私が魔法を使うための糸がほとんどなくなっちゃうのよね。だから、その時は紡ぐのを手伝ってくれる?」


「「「「はーい!」」」」


 四人が本当に嬉しそうに返事をするから、私も気分よく糸車をひと回しし始めた。最初はカラカラとしていた音が、私が綿の糸を押さえつつ回すにつれて、少しずつ変わっていく。必要なのは、勢いだ。ぶんぶんと眠たい蜂のような音を立てて、糸車の糸は紡がれていく。紡錘に巻かれていた糸が、少しずつ太っていく。紡錘がいっぱいになれば、それが一かせだ。これがひとつめ。

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