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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
30章 クロスステッチの魔女と納品騒動
682/1030

第682話 クロスステッチの魔女、一服する

 私がその刺繍を作り終えた時、空は白んでいた。気づけば徹夜していたらしい。私はそんな空模様を見ながら、飲みかけのまま冷えてしまった紅茶のカップを手に取った。前に刺繍していた魔法で温めたそれを、ぐいと勢いよく飲み干す。飲み頃を逃した紅茶は渋くなるものだけれど、今はそれが必要だった。砂糖も入れない。

 頭にそうやって刺激を与え、はっきりと目を覚ましてから、最後に刺繍が図案とあっていることをしっかり確認した。


「ん……マスター……? あっ、もしかして刺繍が終わられたのですか?」


 もう一杯飲もうと立って近づいた気配で、起こしてしまったらしい。紅茶ポットの前でうつらうつらとしていたルイスが、ぱっと目を覚ました。人間ほどは、《ドール》は睡眠を必要としない。それでも眠るようなことをするのは、常に心を動かしておくと魔力の消耗が激しいからだ。魔女と同じように――砂糖菓子を食べながら、の但し書きはつくが――作業の助手として、夜通し起きている《ドール》もいないわけではない。今回みんなが眠ったりその手前にいるのは、単純に私がそれを望まなかっただけだ。


「ええ、終わったから紅茶を一杯欲しいのだけれど……あ、ラトウィッジも起きちゃった?」


 台所の火を眺め、紅茶の練習をしているうちに、二人仲良く眠ってしまっていたらしい。小声で話していたつもりだけど、ラトウィッジがもぞもぞと目を覚ましてしまった。私がカップを手にしていることに気づくと、ぱっと立ち上がる。


「キーラさま、キーラさま、お茶、淹れるから飲んでくれませんか?」


 その声があまりに一生懸命だったから、「いいわよ」と私はカップを差し出した。ルイスが「よかったですね」と耳打ちしている様子も、とてもかわいらしい。

 練習に淹れては飲んでいたと言うポットは空になっていたので、お湯を沸かす。私から預かったカップをお湯で一度温め――普段は省略してしまうけど、確かにこうした方がおいしい――冷める前に、紅茶の葉をポットへ。沢山飲むからとこだわりもなくまとめて買っているけれど、どんな茶葉でも、こういう時にふわりといい香りがするのがたまらない。しばらく蒸らせば香りが部屋中に広がり、私の机の上で丸くなってたキャロルとアワユキも飛んできた。


「いいにおーい」


「ラトウィッジの紅茶よ、せっかくだからみんなでいただきましょうか」


「「さんせーい!」」


 大きいカップひとつ、小さいカップ四つに、琥珀色の液体が注がれる。口に含めば、弟子入り直後の私よりおいしくできていた。

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